第66話 第33.5局 師匠編⑪

「・・・そう。」


 師匠がつぶやく。そして、数秒の沈黙の後、師匠は僕にちょいちょいと手招きをした。同時に、自分の真横の畳をとんとんと叩く。こちらに来いということだろうか。


 僕は座布団から立ち上がり、師匠の真横に座る。


 師匠の方に向かって座った僕に、師匠はふるふると首を振った。そして、僕の後ろを指さす。


 それにつられるように、僕はくるりと座る向きを変えた。背中の向こうには師匠。師匠が次にいったい何をするのか、全く分からない。


 その時だった。


 僕の背中に少しの重さ。


 ふんわりとした花のような香り。


 かすかな温かさ。

 

「し・・・しょう?」


「こっち向かないで。」


 驚いて後ろを振り向こうとした僕を、師匠は制した。僕の背中に、自分の頭を預ける師匠。その手が、僕の服をぎゅっと握る。


「あと・・・・・・何も・・・言わないで。」


「・・・はい。」


 静かな大部屋に、師匠のすすり泣く声が響き始めた。

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