第19話 第14局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「そろそろかな。」
ふいに師匠がつぶやく。
僕は、盤上から顔を上げ、師匠の方を見た。師匠は、自分の長い黒髪をいじりながら、何かを考えているようだった。
「どうしたんですか?」
そう聞くと、師匠は、自分の髪を数本持ち、僕の方に掲げた。
「髪、長くなったから切ろうと思って。」
確かに、師匠の髪は前よりも長くなっているように思えた。だが、もともと長いのだから、大して変わっていないようにも見える。おそらく、師匠だけが分かる基準というものがあるのだろう。
僕は、「そうですか。」と短い返事だけ返す。よく分からないことに対しては、さらっと受け流すことが大切なのだ。
「・・・君は、髪が長めの人と短めの人、どっちが好みなんだい?」
いつものような、師匠からのたわいもない質問。だが、いつもとは異なり、師匠は前のめりになって質問していた。
そんなに僕の答えが気になるのだろうか。それとも、さらっと受け流そうとしていたことが気に喰わなかったのだろうか。師匠の考えていることは、よく分からない。
「特に気にしたことは無かったんですが・・・あえて言うなら・・・長め・・・ですかね。」
そう答えると、師匠は「そう。」とだけ言って、特に話を広げようとはしなかった。
翌週、師匠の髪の長さは、ほとんど変わっていなかった。少しだけしか髪を切らなかったらしい。
・・・やっぱりよく分からない。
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