第18話 第13局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「君はあまり怒らないよね。」


 師匠にそう言われて、僕は返事をすることができなかった。


 確かに、僕はあまり怒るということをしない。もちろん、むっとして拗ねるということはあるが、怒るというところまではいかないのだ。どうしてなのか、自分でもよく分からなかった。


「試しに、私に怒ってみてほしいな。」


 返事をしない僕を見て、師匠はそんな提案をした。顔が少しにやけている。完全に面白がっているのだ。


「・・・やってみます。」


 そうは言ったものの、どのように怒ればいいのか分からない。記憶の中をまさぐりながら、師匠に対する怒りを探す。


 ・・・・・・


 ・・・・・・


「シショー、バカヤロー。」


 ・・・・・・


 ・・・・・・


「・・・すいません。」


 思わず謝る僕。


 そんな僕を、師匠は「クックック」と声を漏らしながら愉快そうに見つめていた。

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