第11話 第9局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「・・・負けました。」


 そう言って、頭を下げる。疲労感が一気に体中を駆け巡る。


 いつものことではあるが、今日も僕は、師匠に勝つことはできなかった。


「ありがとうございました。」


 師匠は一礼し、ふうっと息を吐いた。


 師匠も疲れているのかなと思い、その顔を見る。しかし、特にそんな様子はなく、いつものような穏やかな表情を浮かべているのみだ。


「むう・・・悔しいなあ。」


 そんな言葉が口から飛び出す。将棋に負けたこともそうであるが、師匠に疲労を感じさせることすらできない自分が不甲斐なかったからだ。


「・・・もう一局といきたいところだけど、やめておこうか。」


 師匠の言葉につられ、僕は自分の腕時計に目を落とす。時間は、深夜1時近くになっていた。


「そうですね。時間も遅いですし。」


 そう言って、駒と盤を片付け始める。そんな僕を見て、師匠は再びふうっと息を吐いた。


「それもあるけどね。今日はいつも以上に集中して疲れてしまったから。」


 うーんと伸びをする師匠。それは、いつもの師匠に不釣り合いな行動だった。


 ・・・・・・僕も案外成長している・・・のかも。

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