第24話 違うよ

自宅に戻った僕は、つけっぱなしにしているパソコンの


最新ニュースのサイトを見た。




何か手の届かないところで、恐るべきことが起こっている。


そんな気持ちが、僕の脳裏から離れなかった。


そして、その予感は、間違っていなかった。




それは最初、インドとパキスタンの国家間で始まった。




両国が戦争状態へと突入したのだ。




ニュースによれば、始まりは些細なことだった。


パキスタン軍の兵士数人が、酒に酔った勢いで、


インドとの国境を無視して、数発の銃弾を発砲したのだ。




ただ、ネットの情報によれば、それは単発の銃弾ではなく、


コンピューターで制御されている


自動重機関銃だったとの情報もあった―――。




それにインド軍が、応戦したのだ。


次第に両軍は苛烈していき、全面戦争へと突入する


勢いにまでになった。




その発端は、まるで、100年以上前にあった盧溝橋事件にそっくりだった。




局地戦で終わればと、僕は願っていた。


その不穏な空気に、僕の心の中には、否が応でも彼女の影がちらついていたからだ。




彼女とは勿論―――『愛』のことだ。




まさかとは思うが、『愛』が、パキスタン軍の


自動機関銃を操作したとは思いたくない。


でも、僕の直感が、その思いを強引に意識の中に浮かび上がらせる。




テレビやインターネットでは、この話題で持ちきりとなっていた。




軽率な考えしか持っていない人々は、


『核戦争が始まるじゃね?w』とか、


『この世の終わりの始まり』とか


動画サイトやニュースサイトまとめブログなんかで、


コメントしていたが、僕には到底空想上のものには


感じられなかった。




もし、本当に『愛』が関与しているのなら・・・。






僕はモニターから離れられなくて、手に汗がにじんでいて、


心がかきむしられる思いで、この報道を見ていた。




僕以外、誰もいない部屋から出て、誰かに会いたい。


誰かとは、決まっている。




愛美だ。


彼女しか、今の僕のやり場のない心を癒してくれる存在は無い。




僕はいつしか、呼吸が荒くなっていた。




不安と恐怖―――そして、とてつもない罪悪感。




『愛』。君なのか?


違うと言ってくれ。




頼むから。違うと言ってくれ。


僕のパソコンでも、スマホでもいいから。




『私じゃないよ』って言ってくれ。




こんな思いが永遠に続くような気がして、


爪が喰い込むほど、僕は両手を組み合わせて握りしめていた。


それは、神へ向かって懺悔している姿だったかもしれない。




この世界は、とんでもない方へと向かっているのかもしれない。




それは、僕の責任かもしれない。違うと信じたい。




『愛』『愛』『愛』・・・。




『違うよ』って言ってくれ―――。






その時、マナーモードにしていた僕のスマホが震えた・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る