錬金術師エルマの調合目録 ~古の竜と摩天楼の魔女~

小欅 サムエ

Pre-recipe

それは本当に偶然の出会い

 灰色の埃が立ち込める中、大きく咳き込んだ少女はゆっくりと立ち上がる。上空の小さな光点をぼんやりと見つめ、少女は小さく溜息を吐く。


 かなりの高さから落下したにも拘わらず、奇跡的に足を少し痛めた程度に済んだ少女は、一歩ずつ歩み始める。新しく少女が開けた穴から注ぎ込む光を頼りに、慎重に。


 周囲は瓦礫の山。人はおろか、生命の息吹すらも感じられない、とても無機質な空間であった。助けを求めても、恐らく誰の耳にも届かないであろう。


 だが、たった一人。小さな炎を闇の中に灯し、大釜をかき混ぜる老婆の姿があった。その老婆は、少女が近づいてきた気配を察知し、じっと彼女を見つめる。


 蛇に睨まれた蛙の如く身を凍らせた少女に向け、老婆は優しく口を開いた。


「おや、これは珍しいお客さんだこと。ようこそ、私の朽ち果てたアトリエへ」

「アト、リエ……?」

「そうとも。私はここで錬金術を行なっている、言わば魔女というやつ、だよ」


 これが、少女エルマと魔女との、奇妙な出会いであった。

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