実験3 ハチミツ・Bee・ペンダント
第21話 お嬢様と科学者 その1
「――今日、あたしの家に来なさい!!」
放課後、さっさと帰ろうとしたところ、ハチミツにそんなことを言われた。
「……なんで?」
当然、俺はそう聞いた。どういう意図があってのお誘いなんだ?
怖ぇよ。お前の家は、特に。
「え? ……そうね、——っ、招待してあげるって言ってるの!!」
「いや、やめておく」
「断られた!?」
ハチミツの顔がさぁっと青くなる。
そしてすぐに真っ赤に変わった。
「なんでよ! あたしが招待してあげてるんだから、断る理由ないでしょ!?」
「ほんとに悪いけどごめん無理だわほんとごめんなだから俺は帰るじゃな」
「早い早いカバンを持って教室に出るまでが早過ぎるのよ!!」
ハチミツが俺の制服を掴んでぐいぐいと引っ張ってくる。
破れる破れるっ、聞くから離せっ。
「す、すごいショックだったからね……?」
「で、なんだよ。家に連れ込んでなにするつもりなんだ……?」
「へ、変なことはしないわよ!? ただ――」
「俺の体をお前に売る気はねえぞ!!」
「買う気ないわよ! 違、そうじゃないの!!」
「じゃあなんなんだ……」
探ってみたけど分かりそうにないな。もう直接、聞いた方が早い。
「……ダメ、かしら。普通に友達と遊びたいと思うのは」
「――いや、そういうことなら、いいけどさ」
裏がありそう、とは思うが。
まあ、あったらあったでいいか。
なかった場合、ここで断るのは、いくらハチミツとは言え可哀そうだ。
「分かった、行くよ」
「ほんと!!」
ぱぁ、とハチミツの笑顔が輝き出す。
ぐらり、と心が揺れた気がした……こいつもこんな表情をするのか。
当たり前か。アキバや委員長と並ぶ美少女だしな。
ハッピーとモナンも、残念だがそれでも美少女である。
俺の周りの女子はレベルが高い……まあ、それを台無しにする残念さだが。
このハチミツも、例外ではない。
「え、トンマ? 今日はハチミツと遊ぶの?」
げげ、というハチミツの顔。
俺は後ろを振り向いた。
同じクラスだからそりゃそうだろうとしか思わなかったが、アキバとハッピーである。
今日は地下研究所ですることもないし(毎回、することがあったわけではない)、すぐに帰ろうとしていたらしい。遠巻きに聞こえていたが、カフェにでも寄ろう、という用事があったみたいだが……、俺を省いた女子同士だと、そういうところには行くのか……。
誘ってほしいわけじゃないけどさ。
「ハチミツの――うんっ、私も行く!!」
「面白そうだな。ハチミツの家なら、甘そうな感じがする」
「甘そうって……、別に蜜が塗ってあるわけじゃないわよ!?」
分かるわそれくらい。
「なんだよ、つまんねえの」
「本当にそうだと思ってたのか? 塗ってあるわけないだろ」
「だってさあ、イメージ的にそういうバカなことしそうじゃん」
「あたしのイメージって……」
ハッピーの言葉に、ハチミツががっくりと肩を落としていた。
「まあ、くるならくればいいけど。ほら、行くわよ」
「あ、ちょっと待って」
アキバが遮る。そして、スマホを取り出し、
「あ、もしもし。今から友達の家に行くんだけど――、一緒にいく?」
電話の先の人物は誰なのだろうか。
アキバが誘うような友達、ねえ。
『いきますっっ』という幻聴が聞こえ、嫌な予感がした。
いつものことながら、俺はこのメンバーを捌き切れるのか?
―― ――
「というか、こんな大所帯で向かって大丈夫なのか?」
「それは大丈夫よ。あたしの家は大きいし。
テーマパークくらいの敷地はあるんじゃないかしらね」
「さらっとすごいことを言ったなお前!」
一つの町がすっぽりと入るくらいの大きさってこと?
そんな敷地をどこに持っているんだよこいつの家……。
地上でなければ地下かもしれないな。
さすが金持ち……。
「お金があればなんでもできるわ」
「なんでもは無理だろ、たとえば死人を生き返らせることは不可能だ」
いやでも、あらかじめ記憶をデータに移しておいて、生前に近い体験を与えておけば死後もまるで本人が生きているような思考回路をさせることも可能かもしれないけど……、
それを生きている、と言えばの話だ。
「できないとでも思っているの?」
「え、まさか……」
俺が言ったデータ移行説ではなく、本当に……?
「できないわよ」
「意味深な言い方すんなっ!」
できるかと思っただろうが!
「じゃあ、ちょっと待ってなさい、迎えを呼ぶから」
「迎えがあるのか? ……そりゃあるか」
お嬢様だもんなあ。
「
「人力!?」
「はい、これですぐにくるわ。ちょっと待ってなさい」
「車じゃねえのかよ! なんで大人が五十人も!? 神輿みたいに担がれるのか俺たちは!!」
「え、あんたたちはこういうのが好みでしょ?」
「違う!! そりゃ突っ込みやすくはあるけど!! 今はいらん!!」
「えぇ……、まあいいわ、じゃあ車にしてあげる」
「そうしてくれ……」
疲れる――、これがお嬢様の贅沢なお遊びか?
「あと五分でくるから」
その後、本当に五分で迎えがきた。一秒もずれずに、ぴったりとだ。
なんだか、申し訳ない気分になった。
―― ――
「なんで戦車だぁ!?」
俺たちを迎えにきてくれた車は――、戦闘車両である。
目立って仕方がねえ。
「なにと戦う気だ……」
「自分自身じゃないかしら」
「格好良いよお前!」
ハチミツはきょとんとしている。
こいつのセンスはどういう――、俺たちとは違うんだなあ。
「わぁ、戦車だぁ」
「おお、これはアタシの拳と、どっちが強いのかね」
「っっ、この形、最高ですねっ!!」
モナンも加わった地下研究所のメンバーは相変わらず絶好調だった。
「だ、誰も突っ込まないだと!?」
俺だけじゃん! これ俺の役目じゃねえんだけど!!
「いいだろ別に。戦車だったところで困るわけでもないんだしさ」
「そうですよ先輩、細かいです」
「ねー」
「うぐ……」
さすが女子、こういう団結力は強い。
心が折られたぞ?
「あんたたち、喋ってないで乗り込みなさい」
「「「はーい」」」
モナン、ハッピー、アキバが乗り込んでいく。
俺もそれに続こうとしたら、
「あんたはこっち」
「は? え――」
ぐいっと腕を引っ張られる。
前に待機していた別の戦車へ誘導された。
「人数制限よ。あんただけはこっちね」
そういうことなら仕方ないか。
ハチミツに促され、乗り込むと――おお、中は意外と広いのか。
三、四人くらいなら余裕で入れそうな空間である。
大体の人がそうだとは思うが、戦車に乗ったのはこれが初めてだ。
「すっげ……」
「でしょう? これがあたしの力よ」
「お前のではないけどな」
正確にはお前の親の頑張りで得た力だろう。
「いいのよ、蜂堂家の力はあたしの力なの!」
「ダメなやつが言うセリフだな、それ」
「いいから、黙ってじっとしてなさい」
ハチミツがボタンを操作し、戦車を動かす。
――お前が操作するの!?
ガコンっ、と戦車が揺れ、前に進んだ。
「え、運転もお前!?」
「うん」
「だ、大丈夫なのか……?」
今は全自動なのかもしれない。
自立する戦車、か。戦争に使ったら死者が出なくなるのかも。
すると、
どんっ、という衝撃が伝わる。
やっぱり、大丈夫じゃなかった。
「――ぶつけたよな今!?」
「上手く通れないわね、故障かしら」
「道が狭いんだよ戦車のせいじゃねえ!!」
「そうね、今からこの道を工事して拡張すれば、通れるのね」
「『通れるのね』じゃねえわ!
戻ればいい話だろ、今から工事したら半日はかかるじゃねえか!!」
「蜂堂家の手なら三分でできるわ」
「マジで!?」
まあ、さすがに工事は無理らしい。近隣住民を買収するにしても、そっちの方が時間がかかるだろうし。だから引き返すしかないわけだが――、
「仕方ないわね、飛ぼうかしら」
「は?」
え、飛ぶ?
「飛行モードへ移行」
「ちょっ、待て待て話を進めるな俺のリアクションで間を置けぇええええええ!!」
ボタン操作をすると、ガシャコンッ、と戦車が揺れる。
すると、
戦車の真横から羽がしゃきーん、と出てきた。
「うわ、横の家の塀が崩れてる!!」
「あとで謝罪と買収するから大丈夫よ」
謝罪するってことは大丈夫じゃない自覚があるんじゃねえか。
「さて、飛ぶわよ。しっかりとなにかに掴まってなさい」
「シートベルトは!?」
「ないわ」
「じゃあどこに――」
ぎゅ、と、ハチミツが俺の服を掴む。
おいおい、満員電車じゃねえんだぞ、俺に頼られても、俺は柱じゃない。
「これ、掴んでいいのか?」
座席近くの取っ掛かりを掴む。これで耐えるしかない。
「あんた次第で、あたしの安全が変わるから」
「責任重大なんだけど、そもそも危険なことをしない方がいいのでは?」
無視された。そして、
「飛ぶわ!」
「え、早っ、マジで!?」
はっとしている間に、浮遊感が生まれる。
飛んで――飛んでる!!
「「飛べぇええええええええええええええええええ!!」」
俺たちは大空へ飛び立ち――、
プス、プスプス、という嫌な音がして――エンジンストップ?
「…………」
「…………」
「…………てへ」
「てへじゃねえよぉおおおおおおおおおおお!!」
どしんっっ、と大地を揺らす衝撃を残し、戦車が道端でエンジンストップ。
ここから動けなくなったんですけど?
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