第7話 ゲームをする科学者たち 中編

 待たせたな、前回のあらすじだ。


 アキバの発明品でゲームの世界に入った俺たち。

 俺は【マッドサイエンティスト】、アキバは【悪魔】、ハッピーは【鬼】という、それぞれのアバターになって草原の真ん中で目覚めたが――、


 しかし、そこにモナンの姿がなかった。


 モナンなら大丈夫だろう、という話し合いの結果、放っておく事にした。

 そして、今、俺たちは最初の町に向かっている途中である。


 ……とまあ、道中、特にやることがないので心の中で状況を整理してみただけなんだけどな。


 すると、聞き慣れた戦闘音楽が流れ始めた。


「は!? なんだこれ!?」

「敵よ、なにしてるの、早く武器を取って!」


「お、おう――いやでも待て! 

 どうやるんだ、というか武器なんて持ってるのか!?」


「アイテム欄から武器を選択して! そのあとに装備!

 ここで死んで、スタート地点に戻るのは面倒なんだからねっ!」


「最初の敵だろ? さすがに即死レベルの敵なんか出るわけ――」


 すると、目の前に敵が現れる。



 ――四天王の一人、炎神えんじんが出現した。



「なんかめちゃくちゃ強そうなモンスターきたぁあああ!?!?」


 四天王だと!? この序盤も序盤でなんでそんなやつが!?


「ぼけーっとしてないで! 早く戦わないと!」

「順応できるか! なんでラスボス直前に出てきそうなモンスターが出るんだよ!」


「……展開を早く進めるため?」

「そういう問題じゃないよなあ!? というかその感じ、前回から引き継いでるのか!」


「そうよ。だってこれ、後編でしょ? 前後で違ったら、なんか変じゃない」

「そうだけどさあ!」



 ――四天王の一人、炎神えんじんが出現した!!



「あれっ!? 待ちくたびれてるの!?」


 システムメッセージが二回目のアナウンス。無視していたの傷ついた?


「えいっ!」

「四天王の一人をムチで打つなよぉぉぉぉおおおおお!!」



 怖いもの知らずか、お前は!



 ――炎神の攻撃! 炎の息!!



「うおっ……やべ、避けろ、アキバっ!」

「えいっ!」


「四天王の一人の口を塞ぐなよぉおおおお!!」


 そこ、口なのか? でも実際に炎は吐いてこないし……。


 炎神さん、攻撃できなくて落ち込んでるよ……炎の塊だけど感情がよく分かる。


「アキバさん、ちょっとこっちにきてくれるかな?」

「? なーに?」


「お前っ、ちょっとは気を遣えよ!

 炎神さんの四天王としてのプライド、ズタズタだからな!?」


「うん、だってそれが狙いだもん」

「お前は悪魔か!? …………あ、悪魔か」

「悪魔だけど……トンマはアバターじゃなくて私の人間性を言ってるよね?」



 ――炎神は立ち直った。



「炎神さぁぁぁん!!」


 良かった、メンタルの復活は早いらしい。


「いや、きもいから。こっちにこないでくれる?」



 ――炎神は…………しゅん。



「炎神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!」


 また落ち込んでる! 両手両膝を地面につけてるよ、あれ!

 全身が真っ赤なおじさんが落ち込んでる絵面だ、これ!


「もうお前は黙ってろ! 俺が正々堂々、ゲームらしく戦ってくるから!」

「……とかなんとか言って、経験値を独り占めしようとしてるでしょ!」


「うっ! ……いや、違うよ? そんなんじゃないよ……?」

「バレバレ過ぎるのよ!」


 なんて鋭いやつなんだ。

 しかしだ、


「もうこれは早い者勝ちなんだよ!」

「あっ――待ちなさいっ!?」


 ハッピーが遠くで別のことをしている今、これは経験値大量獲得のチャンスだ!


 俺はアイテム欄から武器を選び、装備をして、炎神の前へ。

(当然ながら、初期装備しか持っていない)


「――いくぞ!!」




 そして、俺の手に武器が出現した。


 その武器――、


 こんにゃくだった。


「――勝てるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 こんにゃくを思い切り地面に叩きつける。

 ぷるるん、と跳ねて、地面を這うこんにゃく。


「こんなの使って勝てるか!? なんで初期装備がこれだ、おかしいだろ!?」


 もう一度だ、武器を選択し、装備!


「今度こそ――分かってるよな!?」


 そして、手に握られたものは。

 ……真っ白なパンツだった。


「だから勝てるかぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 パンツを空中に放り投げる。


「だからなんで武器が――武器か!? 普通は防具じゃねえのか!?」


 しかも使用後じゃないのか!? ちょっと温かいし……っ。


「これだけ!? もっとマシなのはないのか!?」


 もう一度――もう一度だけ、武器を装備する。

 出てきたものは。


 消しゴムだった。


「もういいよっっ!」


 消しゴムを二つに引き千切る!


「もう悪意しかねえよな!? 製作者ぁあああ! どういう意図があってこんなことをする!」


 はぁ、叫び疲れた……なにもしていないのにHPが減っている……いやなんでだよ!?


「……このゲーム、本格的にもうダメね」

「ダメ以前に、ゲームとして成り立っていない気もするが……」


 武器選択でパンツがあることがな……どういうセンスなんだ?



 ――炎神の攻撃、炎パンチ。



「「っっ!」」


 騒いでいたら気づけなかった――炎神さんが真後ろにいた。


 上から振り下ろされる拳……まずい、避けきれない――。


 まあ、死んでもスタート位置に戻るだけだから……戻し作業が面倒だが、仕方ない。



「――お前ら、避けろぉおおおおおおおッッ!!」


「!?」


 アキバが俺の体を掴み、ぐいっと下に引っ張った。


「うお!? な、なにす――」

「いいからっっ」


 すると、俺たちの真上を、誰かが勢い良く通り抜けた。ハッピーだった。


「はぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 勢い良く棍棒を振り回し、炎神を殴る【鬼アバター】のハッピー。


 すると炎神が消え――炎神が倒れた、というメッセージウィンドウが出る。


 そして、ファンファーレの音が鳴り響き、レベルが上がった音……。


「……ううん、レベル50まで上がったけど、お前らこれをどう思う?」


「「充分過ぎるけど!?」」



 こうして、四天王の一人を倒してしまった。

 これは良いのか悪いのか、よく分からないところだな。

(序盤で四天王を倒して、シナリオに影響があったりするのだろうか……)


 ―――

 ――

 ―


 俺たちは最初の町である【ウキョート町】に辿り着いた。


「おお、なんか賑わってるな」

「最初の町だし、比較的、人は多い方ね」


「なあなあ、クエスト、受けにいこうぜ。さっき面白そうなものを見つけたんだよ」

「こらっ、ハッピー! 私たちはそんな事してる場合じゃないでしょ」


「ん? なんか急ぎの用事でもあったのか?」


「モナンを早く探さないと。

 じゃないと、魔王が倒されちゃってるかもしれないじゃない」


「「あー」」


 モナンの存在を忘れてたな……もういなくてもいいんじゃないか?


「心の中で、『いなくてもいいんじゃないか』とか思っていても、探さないとダメよ」

「それは口に出してほしくなかったぞ!?」


「でもよお、結局、ギルドにいく必要があるだろ。モナンが一番いそうな場所じゃないか?」


「なら、すぐに向かいましょう!」


 俺たちはギルドへ向かう。

 最初の町。広過ぎて、目的地を探し当てるのにだいぶ時間がかかったけど。


 ――

 ―


「へい、らっしゃい」


 カウンターの向こう側でジョッキを拭いているゴツイ男がいた。

 マスターだろうか。

 中には、客が誰もいない。

 まあ、プレイヤーは俺たちだけだから、当たり前だけど。


「すみません、ここに女の子が一人、きませんでしたか?」

「女の子か? ……ああ、きたな。ついさっきだ」


 やっぱりきていたか、モナンのやつ。

 俺たちを待つ気は一切なしか。


「えっと、どこにいったか、とか、分かりますか?」

「あの子ならクエストにいっちまったよ。ほらこれ」


 マスターが紙を一枚、俺たちに見せる。


【討伐クエスト・火竜の巣】


「「強そうなのいってる!?」」


「それ、アタシもやりたい」


「やりたい、じゃねえよ、俺たちでやったら瞬殺されるぞ!?」


「おーい、マスター、それもう一枚くれ。アタシたちもやる」

「話を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 マスターの表情が一瞬だけ曇ったものの、すぐに笑顔に戻った。


「ほらよ。気を付けるんだぞ」

「おう、ありがとな、マスター」


「なに受け取ってんだ! 俺たち、まだいくとは言ってねえぞ!?」


「言え」

「脅し!?」


「いや、話し合いの結果だ」


「話し合ってねえよ! お前が一方的に決めつけてるだけだろ!」

「まあな」


「自覚あんのかよ!」

「よし、いくぞ」


「さっさと進めないでくれるか!? こっちは展開についていけてねえんだよ!」


「……もう諦めよう、トンマ」


 アキバが説得を諦めている……俺一人じゃどうしようもない――となると、はあ。

 いくしかないのか。


「普通にやってもつまらないよな。だから――防具なしで」


「「それは無理ぃぃぃぃ!!」」




 そしてここが森の中。

【イワコイラク森】――だ。


「こんなところに火竜がいるのか? 木、ばっかりだけど……」

「書いてるあるからたぶん……いると思うけど」


 と、アキバがクエストが書かれた紙に目を落としながら。


「おーい、お前らー!」

「あ、ハッピー」

「あいつ、急に突っ走って。……どこいってたんだよ」


 ハッピーが駆け足で戻ってくる。


 あいつの後ろから、がいることも忘れずに。


「「――な、なにしてんのぉおおおおおおお!?」」

「ごめんごめん、いやなんかさー、たまたま見つけちまって、見てたら気づかれた」


「休日かよ!」

「その突っ込みは合ってるのか!?」


 言いたいことは色々とあるが、ひとまずは逃げる――全力で!


「なあ、これ本当にどうすんの!? なあ!?」

「……囮か」


「え、この展開ってまさか……読めるんだけど、なあ!?」


「囮っ、いい言葉、いい作戦ね!」


「アキバまで!? ほらもう俺が浮いてるじゃん、確実に俺が囮じゃん!」

「よしトンマ、お前が囮に――」

「俺の話を聞いてたか!? 嫌だよ!!」


「なんでだよ!」


「いてぇ!? ――おいなんで殴った!? この状況でお前はなんで殴った!?」

「いや、気絶させようとして」


「確実に俺、死ぬよな!? お前に優しさってものはないのか!?」

「痛みを感じる余裕もなく気絶させてやろうと思って」


「優しいけど! 気絶という結果は変わらないのか!? じゃあお前が囮やればいいじゃん!」

「……え、こわーい」


「こんな時だけお前の中の女の子を出すなよ! 可愛いけど似合わねえんだよ!!」

「……トンマ、ドラゴンのエサとアタシの拳――どっちがいい?」


「――俺が囮になるぜ、いってきますぅ!!」

 

 ちくしょう!

 俺は囮になるため立ち止まり、ドラゴンに向き直る。


 ドッドッドッドッドッドッドッドッッ!

 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


 ドラゴン全速力、迫力、半端ないな!?


「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」


 俺は武器として出てきた、バナナを握り締める。

 ……もう突っ込まねえ……突っ込んでやらねえからな!


 すると、突然――ジャキンッ、という音と共に、ドラゴンが、倒れた。



「――え、え、なに……?」


 状況が掴めない。

 なにが起きた……? いきなりドラゴンが倒れて……えーと、


 視線を上げると、ドラゴンの上に立つ、一人の少女の姿があった。


 歴戦の戦士の風格で立つその人は――モナンだった。



「モナン!? よ、良かったっ、俺たちお前のことを――」

「ふん、この程度の獲物も倒せないとは、落ちたものだな――せんぱい」


「……あぁ!?」


 これ……、いつも以上に、すげえカチンとくるな。


「モナンか!? 無事だったのか!」

「ハッピーさん……ふっ」


「あぁっ!?」


 ハッピー、お前の気持ちはすごい分かる。モナンのあのどや顔だろ? ムカつくよな?


「……いつもと違うけど、モナン、よね……?」

「博士……その格好、くすくす、中二病ですか?」


「…………」


 うわぁぁぁぁぁぁっ!? なんにも言っていないけど、アキバの怒りが見える!


 モナンが、ドラゴンの上から飛び降りる。

 すたっ、と着地した彼女は、すっかりとこの世界の住人感があった。


「はぁ……まだその装備ですか。いいですけどね。

 さて、魔王討伐にいきましょう。

 あ、【剣士】であるモナンの邪魔だけは、しないでくださいね?」


「「「………………」」」


「なーにしてるんですか? 早くいきましょうよ」


「ああ、そうだな」

「そうね」

「さっさといこうぜ」


「変な人たちですね……あ、いつもか」


 俺たち三人の意見が揃った。


「「「(こいつ、あとで絶対にしめるッッ)」」」


 ―――

 ――

 ―


「あ、それはそうとせんぱい」

「なんだよ、モナン」

「これ、まだ続くそうです」


「なんで!? これ、後編だよねえ!?」

「いえ、中編です」


「引っ張り過ぎじゃねえか!?」


「まあ、最初は前後編にしようと思っていたけど、

 気づいたら前後だけでは収まらなくなって、中編が入ったってところでしょうね」


「いいよ、そういうことは言わなくて!!」


 ……というわけで、次回、後編!

 次で絶対に終わらせる! これ以上は本当に体力が持たないからな!



「でもせんぱい、後編の次は、サブタイトル変えて続く可能性も――」


「そういうのやめろよぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

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