第7話 遭遇






演奏を終えた時には、もうあの子の姿は見当たらなかった。



楽器など放り投げて追いかけて行こうかとも思ったが

でも、なんて言うんだ?




「エレベータのボタンを連打してましたね」....これじゃあコメディになってしまう(笑)



第一、気味が悪い。



「どこかでお会いしましたね」 ...ナンパだよな、これじゃぁ。 あー、もう!





「なに、ひとりでぶつぶつ言ってるんだよ」と、シュウが僕の顔を覗きこむ。



ハッ、と我に帰って。とても恥かしくなる。

考えている事が解る筈無いのに、なんか気づかれてるような気がして。



「何、赤くなってんだよ。....いい音だったな、今の。なんか、途中から

すごく優しい気持ちになってたみたいだけど...。」



そう、シュウに言われて僕はますます恥ずかしくなって俯いてしまった。




「さ、次行こうか。何やろうか?」


シュウはギターを持ちなおす。









scene #3 cut #1




駅前で人だかりが出来てしまって、おまわりさんが来てしまったので

僕等は、楽器を持って移動した。

シュウは、機材が多いから大変。僕は、彼の太陽電池とかアンプとかを

持って、地下道から国道をくぐって。

なんとなく、大通りを北の方へ向かった。

官庁街の閑散とした通りを抜けると、お城の跡公園に出た。


お堀には鯉が泳いでいたり、睡蓮が浮かんでいたり。

風が吹くと桜が散って、水面にピンクのヴェールがふわり、舞い降りるようで


とても綺麗だ。敷き詰めるように、純白からうす桃色の花弁が波紋にゆらゆら揺れている。


「なあ、シュウ」と、僕は黙って歩いていた彼に尋ねてみる。

「ん?」と答える彼に


「僕はさ、今、ヒューバート・ロウズの『BrandenBurg Concerto NO.3 1st.Mov.』みたいだな、ってこのお堀を見ててそう思ったんだ。

http://mixi.jp/view_item.pl?id=262954


シュウは「お前も今日はなんか、いい気持ちみたいだな。ん、その音、いいんじゃないか」

ストリートで演るのは難しいけどな、それは。」なんて言うので

相変わらず実際的な彼を微笑ましく思った。


僕は、どちらかと言うと夢想的なほう。彼は、実際的なほう。

でも、彼の方が心の奥底じゃromantistじゃないかな、って僕は思っている。

ちょっと、照れがあってぶっきらぼうに見えるけれど。


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