第15話「情報を聞く」

 話をしているのは私よりだいぶ年上のおじさん達……。兵士の様な格好をしているが、昼間から良いのだろうか?


「しかしアレだな、平和になって……堕ちた勇者が追放されて一年か。また魔王みたいなやつが出ないで、こういう平和が続いてくれれば良いよなぁ」


「大丈夫だろ、俺達の国には六勇者様が付いているんだ。そのうちの二人……聖女様と王子様は、ご結婚までされるんだぜ? 仮に魔王が出ても王国は安泰だろ」


「いやいや、勇者が六人も増えるってのは大きな災いの前触れなんじゃねーのか? 俺は不安で不安で……」


「酒の量が増えるってか?」


「そのとーり!! 不安を吹き飛ばすための酒が今日も美味い!!」


「アホか、あれから一年も経ってるから平気だろー。今更なんも無い無い。それにこの国には守護勇者……レックス様がいらっしゃるんだ。何があっても守ってくださるぜぇ」


「そういえばお前、前に助けてもらったんだっけか? カッコいいよなあの人。俺等みたいな奴らにも優しいしよ。女だったら惚れてるぜ」


「そうそう。それに噂じゃ、堕ちた勇者が死んでたって言う流刑地の瘴気がとんでもなく減ってるって言うし、むしろ世界は良い方向に向かってるだろ」


「だなー!! 六勇者に!! カンパーイ!!」


 堕ちた勇者、六勇者、聖女と王子の結婚……。なるほど、予想は付くけど気になる話題だ。彼等に少し、話を聞いてみようか。


「お兄さん達、この国の人ですか? 私は旅人なんですけど、六勇者とか気になる話が聞こえて来たんで……詳しく教えてもらえません?」


「あーん? 何だよ坊主ー。六勇者様を知らないとかどんだけ常識がねぇんだよー」


「なにぶん、村育ちの田舎者でして……。あ、マスター!! この席の方に私の奢りでお酒と料理、ジャンジャン持ってきてください!!」


 卓の男性達は喜びと驚きの声を上げ、周囲の男性達は自分達も六勇者の話をしておけば良かったと悔し気な、だけどどこか楽し気な声を上げていた。


「気前良いな兄ちゃん!! 何だよ? 何を聞きたいんだ?」


「その、堕ちた勇者と六勇者って何なんです? 勇者が魔王を倒したってところまでで私の村の情報は止まってて、私は旅に出てしまったんで」


「じゃあ最初から話してやるよ。一年前だけどな、魔王を倒した勇者が国に対して謀反を起こしたんだ。なんと、当時婚約者だった王子や王族を殺そうとしたんだってよ」


 知っている。良く知っている。だけど私はそこで話の腰はおらずに適当な相槌をうって話を聞く。途中で料理や酒が追加で運ばれてきて、酒の入った男達の口の滑りはますます良くなっていく。


「勇者は結局、流刑地のいわくつきの森に追放されたんだ。それから、誰が呼んだのかそいつは「堕ちた勇者」と呼ばれるようになった」


 随分とまぁ、人に酷いレッテルを張ってくれたものだ。堕としたのはあいつらだろうに……。ただ、そこまでは私が知っている話だ……そこから先が私の知らない情報か。


「それが、六勇者の話にどうつながるんです?」


「それがな、流刑地に追放された堕ちた勇者をなんと王子様が追いかけたんだ!! 勇者のかつての仲間達を供に連れてな」


「へぇ……それって、追放されたからいつ頃の事なんです?」


「確か追放されてから三日後くらいかな。周囲の制止を振り切って、とんでもなく大げさに馬車で移動してたからな、俺等も目撃したんだよ」


 ……なんだって? あいつらがまた森に来ていた? そんな話、フィービーからは聞かされていなかったぞ。聞くまでも無い話だってことなのか?


「なんでまた……追放された勇者を追いかけたんですかね」


「さぁなぁ。王子様の考えることは俺等には分からん。それで王子様はなんと、森で死んでいる堕ちた勇者と、その弟の死体を発見したんだってよ」


「……死体……ですか?」


「あぁ、酷いもんだったらしいぜ。あちこち魔物に食われて、原型なんてほとんど無かったみたいだ、そんな彼女を王子様は優しく抱きかかえたらしい」


 ……聞いていて殺気を抑えられるかどうか自信が無くなってくる。私の死体を発見して、優しく抱きかかえただと? 何だその作り話は。質が悪いにも程がある。


 私も一口だけ酒を口に含み、身体の中に廻る殺気を無理矢理に押し込める様に飲み込む。外に少しでも漏れ出たら台無しだ。ここはあくまでもただの興味本位で聞く旅人でなくてはならない。


 私が酒を一気に飲んだことに気を良くしたのか、おじさんの一人が私の分のお代わりを頼みながら上機嫌で話をしてくれた。


「そしたらよぉ、その堕ちた勇者から王子様を含めた勇者の仲間達に光が降り注いだらしいんだよ。そして聖女様が神託を賜ったんだ。その場にいた六人に、勇者の力を分け与えるとね」


「神託……分け与える?」


「あぁ。王子様の愛が堕ちた勇者を改心させて、かつての仲間達と愛する人に力を託したんだろうってもっぱらの噂だぜ。それで王子様は堕ちた勇者とその弟の遺体を持ち帰り、許しを与えて町外れに手厚く葬ったんだ」


「死んだことと改心したことで罪は贖われた……ってな。自分を殺そうとした女相手に、普通はできねーよそんなこと」


「いやぁ、人間ができている人だよなほんと。俺なら自分を裏切った奴なんて晒して、そのまま放ったらかしにして犬の餌にでもしてる所だぜ。あんな人が将来の王ってのは頼もしいよな」


 そのまま男達は、改めて運ばれてきた酒を手に乾杯する。私もそれに合わせて一緒に乾杯し、酒を一気に飲み干した。


 ふざけている。


 その場で叫び、情報を教えてくれた彼等に八つ当たりしたくなる衝動を必死に抑えた。最初から最後まで作り話……。違うか、ほんの少しの真実を含ませた嘘を公式に発表したわけだ。


 それを民衆は信じている。信じざるを得ないだろう。いかにも大衆受けしそうな話だ。


 死んだ後に許すことで寛大さをアピールして、自分達が勇者の力を何故持ったのかという事の理由付けもしている。まさか……まさか死んだあとにもあいつらに利用されるなんてね。


 どこまで人を辱めれば気がすむんだ……!!


「それで、六勇者さんとはお会いできるんですかね? そちらの方は前にお会いしたとか?」


「なんだよ、聞いてたのかよ。レックス様だけなら確かに会うことはできるかもしれないなぁ。王都を守っていらっしゃるし、よく街を巡回されてるぜ。他の五勇者の方は無理だと思うけど」


「そうなんですか……。でもなんでレックス……様だけ?」


 様を付けるという事を一瞬ためらったが、ここで呼び捨てにしても不自然だと……私は苦渋の表情を隠しながら様を付けた。


 レックス……弟を斬りつけた男……。聖騎士レックス。今は守護勇者と呼ばれているのか? 人から奪った力で勇者とは笑わせる。


 民から慕われているようだけど、お前は何を考えて……民を守っているんだ?


「他の五勇者様は、今は王都にいらっしゃらないからな。それぞれ自身の国に帰ったり、任務で他の地に行ったりとかお忙しいみたいだぜ」


「なるほど。ちなみに、その五勇者様の行き先はご存じですか?」


「さすがにそこまでは俺等には知らねぇなぁ。あ、聖女様と王子様は確か……どっかの領地を治めているとかいう話は聞いたことあるな。どこかは知らねーけど」


「そうでしたか……ありがとうございます」


 流石に他のやつらの居場所は分からなかったけど、収穫はあった。レックスがこの街にいるなら……まずはレックス。お前からだ。

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