第44話

「あのクソみたいなスレもお前が建てたのかよ……」


玄武さんはそう呆れた様子で呟いた。

お爺さん……えぇと、確か、それは此処に来る前に、玄武さんがそう言うチャットルームがあると言っていたんだっけ?


「春さん……嘘、吐いてない……です。お爺ちゃん……探してます」


「いや……百メートルを八秒で走るサイボーグ爺なんているワケ無いだろ……」


そう断言する玄武さんに、小春さんは尚も食い下がって来る。


「えと……探せば、居ます……なので、お願いします。一緒に……探して、下さい」


強情にも、彼女はそう言ってお願いして来る。

玄武さんは嫌だと言う。俺は別に探しても構わないが……しかし今はダメだ。


「俺たちは今追われてるんだ。〈剣の王〉バルゼに―――って?!」


バルゼ……その名前を聞いた彼女は蒼褪めて涙を浮かべていた。

体を小刻みに震わせて、今にでも吐き出してしまいそうな程に調子が悪そうだ。


「……何かあったの?」


「怖い……それ……嫌……いやぁ……ぅ、うーっ……うーっ……」


何か事情があるらしい。

〈剣の王〉の名前を聞いて彼女は服の袖を嚙みながら縮こまっていた。

事情を聞こうにも、今の彼女は話が聞ける様子じゃなかった。


「……取り合えず、コイツは置いておいて……これからどうするかって話をするか」


「はい……えぇと、クインシー。悪いけど、彼女の様子を見ていて欲しい」


「私がですか?……旦那様が、そう仰るのならば」


意外にもクインシーは俺の言うことを聞いて、小春さんの世話をしだした。

別段女が嫌いと言うワケでもないらしい……。


「………玄武さん。現状出来る事があるとすれば。二つの選択肢があります」


二つの選択肢。

それはどちらもおススメ出来ない事だ。


「一つ目は、〈剣の王〉バルゼと、他の危険度Aクラスのモンスターと戦い合わせる事。あの〈剣の王〉バルゼは〈星の狩人〉メルシアを斬って捨てました。その事から察するに、クエストモンスターは他のモンスターに対する敵意や戦闘意志が存在する様子です」


基本的にモンスターはモンスターを攻撃する事はしない。

それは同族ゆえに攻撃しないのかは分からない。少なくとも、捕食目的以外で互いに攻撃し合う様はみた事が無かった。


「難しいな……第一に、他のクエストモンスターが何処にいるのか分からない。それに、例え分かったとしても……同じクエストモンスターと引き合わせるのにかなり時間が必要だ。その間、逃げ切れる自信はねぇ」


そう。あの〈剣の王〉バルゼと他のクエストモンスターを引き合わせるのは難しい。

そもそも、逃げる事が至難だと判断したから別の案を出したのに、〈剣の王〉から逃れる行動が入っているこの案はかなり無理がある。


「なら、もう一つは?」


「はい……〈剣の王〉を倒す」


「………そっちの方がまだ無理があるぜ」


そう。玄武さんの言う通りだ。

どちらも不可能に等しい、けれど。


「……運が良ければ、どちらかの選択肢が成功するかも知れません」


そう、ここから先は運の話だ。

俺が未だに幸運の女神に愛されているのならば……、なんとかなるかも知れない。


「………ガチャを引きます」


事前登録にて得た虹色確定ガチャチケット及び、残りの召晶石100個弱。

これらを全て投入して、戦力を揃える他ない。

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