第42話

「うーっ……うーっ……」


……女の子が豆粒ほどの小鬼に襲われている。

掌に乗っかる程の小鬼は、銀色のフォークを持ってチクチクと女の子を刺していた。

けど、力が弱い為か、衣服の上から刺しても別段痛くは無さそうだった。

しゃがみこんでいる彼女の髪の毛を引っ張ったり、頭の上に乗っかってポコポコと頭を叩いてはいるが、どれも激痛とは呼べなさそうな微々たる弱さだ。


「おい、遊飛、あれは遊んでんのか?」


……はっ、あれ、なんだか微笑ましい光景に見えてボーッとしてた。

一応はダンジョンに迷い込んでしまった女の子がモンスターに襲われている構図だと言うのに。


「こらこら」


……なんだかじゃれ合う犬を止めるような感じで止めに入ってしまった。

しかしそれが功を奏したのだろうか。小鬼たちが俺たちにビビッて即座に撤退してしまった。中々足が速いな。

一人、残された女の子は頭を抱えて縮こまっている。


長い髪は白くて綿毛の様なふわふわとした髪だ。身長は俺と同じくらい……百六十五か、それ以下、かな?


「大丈夫ですか?」


俺がそう声を掛けると、泣きべそな彼女の顔が見えた。

垂れた目と口からは沢山の液が漏れている。余程恐ろしかったのだろう。可愛らしいおっとりとした顔はぐしゃぐしゃになっていた。


「ひ、人………」


「人て」


玄武さんがそう突っ込んだ。

いや人で正解ですけど。

確かに、他に何か呼び方くらいあるでしょうに。

いや、今そんな事はどうでも良い。


「えっと……ダンジョン、迷子ですか?」


そう彼女に聞いてみると、彼女は目を丸くしてこちらを見ていた。

それはもう、穴が開くほどに、ジィっと俺たちの事を見ている。


「す……凄い……〈契約者〉に……〈時空者〉………職業」


「っ……ちょっと、なんで分かるんですか?」


職業なんて、そう簡単に見えるものじゃない。

見た目でそうである、なんて分かるはずも無い。

彼女は、何かしらの能力を持っている。俺と玄武さんは確実にそう断言出来た。


「えと……〈万物の眼ワイズマン〉……です、相手の情報、見れます」


情報を読み取る事が出来る能力。

一体レアリティは高いのだろうか、銀、いや、金以上はあるだろう。

いや、今は、問題は其処じゃない。


「一人か?他に仲間はいないのか?」


玄武さんが俺の聞きたい事を聞いていくれる。

彼女は手の甲で涙を拭いて頷くと。


「一人……です。えと……名前、草陰小春……です」


草陰……その名前、何処かで聞いた事がある。

何処だっけか……えぇと。……あっ。


「このダンジョンと、同じ名前だ」


「はい……ここ、春さんの、お家です……元、ですけど」


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