ガチャシステムが導入された世界で俺だけ事前登録してたので様々な特典でこの世界を生きる

三流木青二斎無一門

第1話


「ん、〈世界浸蝕まであと2日〉?」


スマホのアプリストアを確認している時にふと目に入ったアプリがそれだった。

何も絵柄も書かれていないそのアプリを何気なくタップして見る。

ゲームの内容は〈世界にガチャシステムが搭載!〉〈事前登録で様々な特典が入手出来ます〉とだけ書かれている。

スクロールをしてみると、特典が記載されていた。


召晶石しょうしょうせき百個に……虹色確定ガチャチケット三枚?」


詳しくは分からないが、虹色確定とはこのアプリ内での最高レアリティなのだろう。


他にも虹色召喚獣確定ガチャチケットが一枚。

虹色武装甲確定ガチャチケットが一枚特典として入っているらしい。


「高位職業確定ガチャチケットも一枚か……」


高位職業と言う事は、プレイヤーのアバターが存在して、一緒にバトルとかするタイプなのだろうか。

正直、どんなゲームなのか、特典だけ用意されても、内容がまるで分からない。


「まあ、面白いかどうかはやってみれば分かるし……事前登録するだけでも良いか」


そんな軽い気持ちで俺はゲームの登録を行った。

リリースまで後二日もあるらしい。

俺は特に興奮する事も楽しみにする事も無く眠った。


「あ、そういえば今日だっけ?」


一昨日の事なのにすっかり忘れていた俺は教室の中でスマホを取り出した。

中学校三年生の教室は昔の様にバカ騒ぎしている様子はなく、皆受験の為に集中して勉強をしていた。

俺は別に頭が良くないから勉強はしていない。だから暇潰しにスマホを弄っている。

スマホを起動した時だった。

俺の画面は急に真っ白になって、動画みたいなものが流れている。


「あれ?なんで、これ……」


何処を触っても動画は止まらない。

そして動画に連動するかの様に、急に学校のスピーカーが鳴り出した。

皆がスピーカーの音に注目する。


『あー、あー、みなさーん、取り合えずなんでもいいのでスマホとか見てくださーい』


そんな声が響いた。男性の声、しかしその声は何処の教師の声でも無かった。

その声に反応してスマホを確認する生徒、声を無視して、勉強に取り組む生徒。

俺はそのまま、スマホを凝視していた。

すると、画面に映し出されたのはスーツを着た男だった。

中肉中背、何処にでも入るサラリーマン風な男。

しかし、その顔面には覆面を被っていた。

いや、覆面、なのだろうか。

その覆面は人の顔だった。

白い顎鬚を蓄えた老人を模した覆面。

しかし、覆面からはダラダラと血が流れていて、男のスーツにシミが出来ていた。

まるで人の皮を剥いで被った様な悪趣味な姿だった。


『あー、どもども、聞こえますかー?えーっと、神でーす』


半笑いな口調で、そのスーツの男は自身を神と言った。

教室の中で生徒がザワついている。何の冗談なのか乾いた笑い声をあげる人や、その男の姿にグロテスクさを感じたのか悲鳴をあげる生徒など。様々な反応が織り成している。


『えーっと。俺、実はさぁ。この顔に被ってるの、分かる?これが、お前らが信仰して来た神様なんだけど、コイツ、俺がぶっ殺しちゃってさ、今、俺が神様の座を奪った感じなんだよねー』


軽薄なノリだ。

冗談にすら思える。

見るのを耐え兼ねてスマホを切ろうとする生徒もいるが、しかし何故か、電源を落としても動画は配信し続けている。


『んで、まず最初に、俺が神様になったら何しよっかなーって思ってさ。それで考えたんだけど。あのさ、この世界って退屈じゃん?面白味を感じない、ゲームや漫画みたいな展開が起こらないきわめて平凡な毎日。誰もが一度は考えた事あるっしょ?あぁ、つまんねーなーって』


誰に問いかけているのだろうか。

これは一体、誰に向けたメッセージなのだろうか。

当たり前だが、この動画を見ている俺たちに向けたモノなのだろう。


『こんなツマンネェ世界よりも、ゲームの方が楽しいよな?俺もさ、スマホとかでゲームとかする方が面白いって思うワケよ。だから………』


そして、急に。

ガタン、と音が鳴り出した。

机が傾き始める。

地震が起きているのか?

いや、違う。校舎自体が傾いている。

俺は地面に這い蹲った。そしてスマホを握り締めて、その配信を見続ける。


『この世界のルール。少しだけ変更させて貰うわ。ダンジョン作ってモンスター生み出して、スマホからガチャ引いて戦うファンタジー世界を作るから』


硝子が割れ出す。机が転がって壁に激突する。

生徒たちが壁側にひしめき合って、壁が壊れて廊下へと投げ出された。


『詳しくはスマホにあるゲームアプリをダウンロードしてくれよ。俺が作った世界で、生死を分けたバトルを繰り広げようぜ!』


そうして、ガッツポーズをすると同時に、世界が一変した。

気が付いた時には、俺はスマホを握り締めた状態で空を眺めていた。

あの状態から、どうやって生き残る事が出来たのかは分からない。

体中は軋んで痛みを発している。口の中は血で満たされていた、周囲には怪我をした生徒のうめき声やすすり泣く声で満たされていた。


「………」


俺は空を眺めていた。

青い空とは打って変わった、灰色の雲に赤い空で満たされた魔界の空。

そしてその空に向けて天高くそびえる、巨大な柱。恐らく、あの覆面男が言ってた、ダンジョンと言うものなのだろう。

俺はスマホを見た。

スマホの中身は何時の間にか一新されていた。具体的にはアプリが一つしかなくなっていた。

そのスマホのアプリには、〈神の遺産ガチャ〉とだけ書かれていた。


俺はそれを押す。

すると、画面が開かれた。


『ようこそ!遊飛ゆうひ幸玖さく様』


画面に俺の名前が出てきた。


『このアプリは基本的に一人一台となっております』

『複数所持している場合はチート行為を見なしプレイヤーを削除させていただきます』


削除ってなんだよ。

ゲームの話だろ、これは。

……いや、この現状、そしてあの覆面男の言い方からして繋がりが無いワケじゃない。

つまり削除とは、死亡、と考えるべきなのだろう。


『また、スマホが壊れた場合、スマホの電池が切れた場合』

『これらに対する補償は存在しません。それらも死亡とみなし、死亡から十日後に削除とさせていただきます』

『また、スマホは通常の充電は不可能です。充電をする場合はダンジョンへ侵入する事、ガチャから排出されるアイテムを使用、召晶石の使用で充電完了状態になります』


え、スマホが壊れた時点で死ぬ?

じゃあ、俺のスマホは、第二の心臓の様なモノなのか?

説明を受けていると、次はガチャの説明があった。


『神の遺産ガチャは、生前の神の権能やアイテムをガチャで引く事が出来ます』

『ガチャは一回に付き召晶石十個の消費です』

『十連ガチャを行う場合一回召晶石百個が消費されます』

『レアリティは全部で四種類』

『最低レアリティの銅から銀、金へと続き』

『最高位レアリティは虹となっております』

『はじめてのプレイヤー様には初回のみ』

『神の遺産ガチャが一回無料で引く事が出来ます』

『また、事前登録したプレイヤー様にはメニューから特典を受け取る事が出来ます』

『初日ログインとしてアイテム『回復薬・小器』を配布します』


それで説明が終わってしまった。

お知らせと言うボタンに赤い点滅が出ている。

それを押すと、回復薬が送られました、と言う文章が目に入った。

回復薬……俺はそれを押すとアイテム欄に移動する。

そして俺は、回復薬を押した。

もしもこの世界があの覆面男の言う通り、ルールがファンタジー寄りになっているのなら。

この回復薬は、俺の傷ついた体を癒してくれるかもしれない。

『具現化しますか?』

と言う項目が出てきた。俺ははいを押すと、画面に出てきた回復薬と同じ代物が突如として出現する。


「これは、飲み薬かな?」


俺は回復薬の蓋を取った。ワインの様なボトルの蓋で、外すときゅぽん、と言う小気味いい音が響く。

唇に伝わるガラス瓶の感触。薄い緑色の薬を喉奥に流し込むと、体が熱くなるのを感じた。

じんわりと体の中を巡ると、ふと、痛かった体が治まっていくのを感じる。


「あぁ……本物なんだ、コレ」


この薬を使って、俺はようやく、この世界が本当に変わってしまったのだと理解した。

ならば、俺はお知らせを確認する。


『事前登録特典』


と書かれたタイトルを押す。

すると画面に

・召晶石百個


・銀色以上確定十連ガチャチケット一枚


・虹色確定ガチャチケット三枚


・高位職業確定ガチャチケット一枚


・虹色召喚獣確定ガチャチケット一枚


・虹色武装甲確定ガチャチケット一枚


が、プレゼントされました!』


幸運と言うべきなのだろうか。

俺は事前登録をしていた為に、これほどの特典を手にする事が出来た。

周りを見る。他にも生徒たちがスマホに釘付けだった。


皆は、初回限定ガチャを回そうとしているのだろう。

俺もみんなに倣うように、ガチャを回すのだった。





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