屋上で飛び降りようとする美人なクラスメイトを助けたら

若菜未来

第1部

第1章

第1話 野上って誰?


野上のがみさんかわいそー」「マジで!? ちょっとひどくない?」


 高校2年の1学期が始まって間もない昼休み、近くの女子生徒たちのひそひそ声が耳に飛び込んでくる。

 何かあったのだろうか。


「なぁ。野上ってどんな奴だっけ?」


 クラス替え後の初仕事と言えば友達作りだろう。

 そのスタートダッシュに成功した俺、生田一真いくたかずまは正面に座る茶髪の植草うえくさに尋ねる。

 

 前席の天野にはフラれたものの、俺は無事後席の植草と友達になることが出来た。

 と、いうか植草がめちゃくちゃ気さくな奴で俺に話しかけてくれたからなんだけど。


「野上あおいだよ。かなり綺麗めな感じで、男女どっちからも結構人気ある奴。えーっと……今は教室にいないみたいだな」


 正面に座る植草は教室をくるりと見回すが野上の姿を見つけることは出来なかったようだ。 

 

「へぇ、人気あるんだ。九条くじょうは知ってるか?」


 俺は斜めに座る九条へ問いかける。

 小柄で華奢で透き通るような白い肌にサラサラの黒髪が特徴的な俺曰く妖精のような男。こいつは同中出身の友達で最高に心の優しい奴だ。


「もちろん知ってるよー。すっごく可愛い子だよ。あの辺に座ってる」


 九条が野上の席を指差す。あの辺に座ってる奴……。

 そこでやっとぼんやりだが野上の姿が頭に浮かんできた。


 植草は綺麗めだと言い、九条は可愛いと言った。

 確かに俺の頭に浮かぶ野上はどっちにも転びそうな感じの奴だと言える。


「野上、なにかあったのかな?」


「さあな。でも女子の話題っていやぁあれだろ。彼氏にフラれでもしたんじゃないか?」


 植草は誰とでも仲良く喋る陽気な奴で友達も多い。

 なのでこいつで知らなけりゃ俺たちが知る由も無いだろう。


「そっかぁ。まあ、どちらにせよ俺たちには関係無いか。うしっ、んじゃ今日は行ってこよーかな」


 俺がガタと椅子を引き席を立つと、九条が心配そうに俺の方を見上げる。


「また行くの? 止めといた方がいいよぉ」


「いや行く。今日は天気もいいし絶対気持ちいいからさ。大勢で行ったらバレるかもだけど俺だけだったら大丈夫だって」


「はは。お前も好きだなぁ。まあバレないように気をつけろよ」


 そう言うと植草も席を立ちにかっと笑った。

 交友関係が広い植草は余った休憩時間で他グループにも顔を出すのだろう。


 


 俺は屋上にある一段高い場所、塔屋で寝転び空を見上げる。


 ここから見上げる空は最高だ。

 どこまでも続く真っ青な空に自分の存在ごと吸い込まれそうな気がして、なんというか己の無力さを思い知ることが出来る。

 俺が抱えるどんな悩みごともこの空の前ではちっぽけだ。


 うちの学校は屋上への進入が禁止されてるが、実は屋上扉に掛かる錠前が壊れている。

 俺は高1の途中でそれに気付き、以降天気の良い日はちょくちょく来るようになっていた。

 もしチェックしてるなら、先生も壊れてることには気付いてると思うんだけどな。


 その時、ガチャとドアの開く音が聞こえた。


「あれ、空いてる……」


 女子の声……。珍しいな。


 入り口ドアの真上にいるため俺からしか見えない位置取りになっている。


 見たところで誰かなんて分かるはずも無いと思ってたけど、横顔がちらと見え気付いた。

 侵入者は先程話題に上がった野上だった。

 

 なんでわざわざ屋上に来たんだ? 

 野上みたいな奴がなぜ進入禁止の屋上に来たのか理解できなかった。

 友達とノリで来たなら分かるけど……。1人でなんて。


 バレたら面倒だな。そう思い俺は気付かれないように息を潜める。

 すると、あまり聞き慣れないおぞましい言葉が耳に飛び込んできた。


「はぁ、死にたい……」


 俺は耳を疑った。

 死にたい……!? マジか!? 


 なんで野上が屋上に来たのか。

 それを理解しようとしていたせいか、その言葉は衝撃的だった。


 いや……。まあ冗談で言う事もあるっちゃある? のか?


 もしかしてこいつ、イジメでも受けてるのかな……。 

 でもさっきの女子達の会話からはそんな感じはしなかったけど。


 俺がそんなことを考えていると、野上はフェンスの方へふらふらと歩いてゆく。

 フェンスは女子でも頑張れば超えることが出来る高さでその向こうには2mほどの幅しかない。そしてその先は当然……。


 だからこそ屋上は進入禁止になっているのだろう。


 おいおいっ。

 飛び降りたりしないよな? マジでやめてくれよ。


 俺は彼女から目が離せなくなっていた。 

 そうこうしている間に野上がフェンスを跨いで越えてしまう。


 その時ふいに彼女の短めのスカートがはだけて中が見えそうになり、俺は咄嗟に目を背けた。


「はぁっ」


 なんの気持ちを表しているのか分からない大きな溜息。

 フェンス外で空を見上げる野上の長い髪や短めのスカートが風にたなびく。

 

 ヤバイんじゃないのか? マジでヤバイ空気になってきた気がする。

 俺はごくりと唾を呑み込むと同時に意を決する。


 塔屋から音を立てずに飛び降りると、野上の方へゆっくりと歩み寄った。

 びっくりさせて落ちたりでもしたら大変だからな。


 彼女は俺に気付く様子は無く一心不乱に空を眺めているようだ。


 遂に声の届く位置まで移動すると俺はゆっくりと押さえ気味に野上へ声を掛ける。


「おい、お前野上だよな? うちのクラスの」


「えっ」


 俺の声に気付いた野上は、ゆっくりとこちらへ振り向いた。





********************

【一話目だけのお願い】

もし少しでも続きを読みたいと思っていただけたら、★★★評価どうぞよろしくお願いします!


新作「嘘告トラウマを持つ俺の家に告白されまくりの後輩美少女が同居することになった」

こちらもご覧いただけると嬉しいです。

※シリアス寄りの本作。新作は完全なラブコメです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る