第54話 少女達の戦い

 しばらく後。

 クレイン達三人はソファの上で並び座っていた。


「お恥ずかしいところをお見せしましたわ」


「もうお嫁にいけない」


 ユキが無表情で大げさなことを言う。

 フレデリカは羞恥のせいか顔を覆ったままこちらを見ようともしない。


「落ち着いたか?」


「はい……」


 俺は近くのスツールに腰を預けて深呼吸を一つ。涙で腫れた彼女達の目元から視線を逸らした。


「ごめんなさい。フレデリカ、ユキ。わたくしのせいでこんなことに」


「クレインのせいじゃねぇですよっ。こんなの……!」


 ばっと顔を上げたフレデリカは、強い語気でクレインの手を握る。

 二人の手の上に、ユキの小さな手が重なった。


「そう。あなたのせいじゃない。あなたは家の反対を押し切ってこの学院に入った」


「父親の派閥争いなんかに巻き込まれる謂れなんてねぇってことですよ。悪いのはぜーんぶソルの野郎ですっ」


 励ましの言葉に、ふるふると首を振るクレイン。


「世間はそうは思いませんわ。ガウマン家の策謀だとなれば、わたくしを攻撃するのは当然。いかに上手に否定しようと、言い逃れにしか受け取ってもらえないでしょう」


 三人の間に再び暗い雰囲気が訪れる。

 健気な少女の友情だ。フレデリカとユキからすれば、クレインを責めたくもなるだろうに。俺の思っていた以上に彼女達の繋がりは強いようだ。

 美しい友情に心打たれた、なんて言うつもりはないぞ。神聖騎士として、私情を介した判断は許されない。


「なぁみんな。俺がここに来た理由。わかるか?」


 三人の視線が集中する。


「わたくしを、捕まえに来られたのでしょう?」


「そうなんですかっ?」


 フレデリカが杖を手に立ち上がる。


「だったら容赦しねぇですよ。フリードさんごとき、私の魔法で吹き飛ばしてやります」


「落ち着け。捕まえるつもりならとっくに捕まえてる」


 俺がそうせずとも、学院側が黙っていないだろう。クレイン達がまだ自由の身でいられるのは、確固たる証拠がないのと、政治的な理由からだ。


「フレデリカ。おやめなさい」


「けど」


「ここで戦っても意味がありませんわ。それに……たとえわたくし達が束になったとしても、フリードさんには勝てません」


 フリデリカは油断ない眼差しのまま杖を下ろす。


「なら、いったい何しにここに来たんですか。元パーティメンバーのよしみで助けに来たって言っても、信じねぇですよ」


 そうやって懐柔する案もあったが、この状況でそんなあからさまな手は打たないさ。


「気になって様子を見に来たっていうのもあるが、本題はそこじゃない。リーベルデ様と学院の為だ」


「どういうことですか」


「考えてもみろ。聖女滞在中に学院内でアウトブレイクが起きた。それが政敵の令嬢によるものだったとすれば、こんどこそ学院の権威は失墜する。学院が支持する教会にも飛び火するだろう。そうなれば、リーベルデ様のお立場も危うくなる。その場にいながら手をこまねいた無能な聖女と言われるかもしれない」


 クレインの顔が青くなる。


「証明して欲しいんだ。ガウマン家が今回の件と無関係であることと、ソルの行動はパーティとは無縁の独断専行であることを」


 一応俺なりに考えた方便だった。

 仮に今回の事件にガウマン家が関わっていて、その目的が教会や学院の力を削ぐことだった場合、事実が明るみに出ることで目的が叶うことになる。相手側のメリットをチラつかせた揺さぶりをかけてみたというわけだ。


「証明するといっても、どうやって?」


 ユキが静かな問いを口にする。


「クレインの潔白を証明できるなら、なんでもやってりますよ!」


 フレデリカは鼻息荒く断言した。


「二人はこう言ってるが、どうだ。クレイン」


「わたくしは……」


 クレインは言葉を詰まらせた。

 何が彼女を躊躇させているのか。

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