第53話 真偽はいかに
俺は意を決して、人だかりへと声を張った。
「やめるんだ」
視線が集中する。
俺が神聖騎士であると認めた学生達は、途端に表情を変えて後ろめたそうにした。
「これは騎士様。お見苦しいところをお見せしてしまいましたな。して、何故このような場所へ?」
好機とばかりに、厳つい教官が声を大きくした。
「リーベルデ様の使いにて、クレイン・ガウマンのパーティに用を伝えに参った。火急の事態ゆえ、人払いをお願い申し上げる」
努めて形式ばった口調で意思を伝える。
慣れない言葉遣いだが、堂々としていれば意外と様になるだろう。教官はともかく、学生達には威厳を示す効果がある。
「リーベルデ様が……承知いたした」
教官は学生達に視線を巡らせる。
「聞いたな諸君。ここで揉めていては聖女様のご迷惑となる。今日のところは引き取りたまえ」
学生達は納得のいかない様子だ。だが聖女の名を出されては引き下がらざるをえない。ここらが潮時であると、みな察したようだった。
「ふんっ!」
いかにもな苦々しい仕草で、学生達は散っていく。去り際に俺を一瞥した者の中には、同級生も混ざっていた。彼らの瞳は俺に対する負の感情を秘めていた。
劣等生だったくせに、神聖騎士になった途端に偉そうにしやがって。そんな心の声が聞こえてくるようだった。
だが、今はそんなことどうでもいい。
「フォルス教官が対策部隊のメンバーを選抜している」
俺は学生達の背中へと声を投げた。
「仲間の仇が討ちたいなら、そこに立候補するといい」
一部の学生達がこちらを振り返り、そして足早に去っていった。
目的を達成したいのなら正道を歩むべきだ。崇高な目的は、清廉な手段によって果たされるべきなのだから。
コネで騎士になった俺が言っても、説得力がないかもしれないが。
「お手数をおかけしましたな。騎士マイヴェッター」
「いえ……」
二人の教官が俺に敬礼をする。俺もぎこちなく、それに応えた。
「三名は中におります。我らはここで見張りをしておりますゆえ、どうぞごゆるりと」
「感謝します」
つい先日まで教えを乞うていた教官達に畏まられるのはなんとなく居心地が悪いが、ここで卑屈になってもしょうがない。俺はリーベルデの代理としてここに来ている。謙虚でありつつも毅然とした振る舞いを心がけよう。
俺は作戦室の扉をノックする。
「……どうぞっ」
クレインの声だ。引き攣っているのは、極度の緊張のせいか。
俺はそのまま扉を開き、部屋に立ち入った。
「失礼する」
まず目に入ったのは、作戦室の片隅で身を寄せ合う三人の少女だった。
あの状況では無理もない。
「集まってた奴らは追い払ったぞ。ひとまずは安心だ」
「……本当ですの?」
「ああ」
クレイン、フレデリカ、ユキの三人はお互いに顔を見合わせると、誰からともなくゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「フリードさん……」
クレインはまだ恐怖を帯びた表情を浮かべている。それが徐々にほっとしたような面持ちに変わっていく。
「うおっ」
思いもよらぬとはこのことだ。
ぶわっと涙を溢れさせたかと思えば、クレインは脇目も振らず俺に抱き着いてきた。それに続けと言わんばかりに、フレデリカとユキも俺の腰に腕を回してくる。
三人は嗚咽を漏らし、さめざめと泣き始めた。
おいおい。これは流石に予想していなかった。
だが、考えてみれば当然だ。彼女達はまだ十三歳の少女だ。味方だと思っていた学生達の悪意や敵意に晒され、平静でいられるわけもない。
年齢相応の幼さは、庇護欲を掻き立てられる。
俺は彼女達をそっと抱き返した。すこしでも安心できるようにとの想いを込めて。
そこでふと、フォルス教官の言葉を思い出す。
女はしたたか。
もしこれが神聖騎士に守ってもらおうという打算の上の演技だとしたら。なるほど確かにこの上なくしたたかだ。
けれど、なんというか。
騙されていてもいいと思ってしまうくらいには、俺も甘い男なのかもしれないな。
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