第34話 どうかしてるよ
いきなりのビンタ。
「園崎、それは本気か」
「最低、何考えてんの。冗談で好きだなんてあんたにいうわけないでしょ?」
やはり信じ難い。いつも暴力と暴言ばかり吐くアイツが俺のことを好きだというのか。
でも、もし園崎があの子だとしたら。
「さっきの続き。やっぱり、気になってるでしょ」
ワイシャツのボタンが、再度とかれていく。
ひとつ、ふたつ……
そして、問題の鎖骨と胸元の間。そこに、ほくろは。
「ほくろが、ない?」
「そう。あたしの胸元にはほくろなんてない。生まれたときから、ずっと」
すぐにボタンは元につけ直される。
「お前は、あの子じゃないっていうのか。それと関係がないなら、どうしてあの写真を持っている?」
「あの子はね、あたしの親戚の子。
雪菜という名前は、いま園崎の口からでたことで思い出した。なぜか、これまで忘れてしまっていたな。
そういって、園崎はツインテールを手で握って後ろに持っていく。ツインテールがない園崎をじっと見ると、確かにあの子に似ていた。
「似てるかもしれないな」
「ちょっと嬉しい。だって雪菜は、あたしの憧れだから」
「憧れ?」
「あたしと雪菜は正反対。雪菜はあたしのように暴力的じゃなくて、穏やかで、可愛らしい。どこをとってもあたしが勝てることなんてなくて、なんでも器用にこなしちゃうような子」
雪菜には強く惹かれた。憧れという言葉がよく似合う。
「ずっとライバル視して、追いかけて頑張ってきたけど、全然追いつけなくて。小学五年生のある日、雪菜に会いにいった日。ふだんは冷静なはずの雪菜がやけに挙動不審で。話を聞いてみた。そしたら」
「俺と雪菜……いや、雪菜さんとの間で起こった事をはなした」
「そういうこと。あんた、少し強引に迫ったんでしょ? 本当にありえない。まじきもい。人ととして生きる価値がないんじゃないかってレベル。勝手すぎて
そこまでいわれると、過去の俺を殴りたくなる。やり方はひどいものだったから、色々いわれても仕方ない。
「でも、あんたが四泊五日の家族旅行の時間で、しっかり雪菜との関係を深めてたらしいじゃないの。あの雪菜が、『あの人のキスなら、許してもいい』っていってた。正直、信じられなかった」
あれから会っていなくて、なんの答えももらわずにいたけれど。まさか、好意的に受け取られていたなんて。
「それで、相手の名前をきいた。『一樹。たしか浦尾くんっていう苗字』って。いつか雪菜を落とした男の顔っていうのを見てみたかった。どんだけいい男なのかって期待までしていた──────それなのに」
じろりと園崎は睨んでくる。
「偶然出会えたっていうのに。いまいちパッとしないし、期待外れだった。失望したわ。雪菜をオトした男がこんなダメ男だなんてね。よりにもよってこいつに唇を奪われたのかと思うと、腹立たしかった」
まさか、俺にここまでひどく当たっていたのと、家政婦として雇って欲しいと頼んだのは。
離れ離れだったピースは繋がった。
「生活態度はあたしのおかげでましになりつつある。それで、あとは何かと思えば愛の重すぎる幼馴染。あの関係は、確実にあんたをダメな人間にさせてる。自覚はなくとも、かなりね」
「でも、やっぱり長年の付き合いってやつが」
「あたしだって……ずっと、あんたに会ってみたかった。絶対にいいやつだって思って。ようやく会えて、少しずつまともにさせていくうちに。なんだか、身勝手だけど好きになっちゃったのよ。雪菜が好きだって知ってても。だってもう、雪菜はいないから」
「雪菜がいない、だと?」
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