幼馴染、星乃笑里編〜修羅場のショッピングモール〜
第23話 なんでついてくんの?
「マジでふざけんなよ」
「それはこっちのセリフよ」
老夫婦に仲良しさんと誤解されてんだよ。こちとらアイツを受け入れる覚悟が半分くらいしかできていないんだ。頼むから変な誤解はすんじゃねえ、老夫婦。
そう文句はいっているものの、真白に宣言したものだから、少しずつアイツのことを理解していかなくちゃならない。
「で、なんで次の行先まで同じなんだよ」
「なんであたしの買い物先とあんたの買い物先がかぶるわけ?」
ここの近くのショッピングセンターにいって今日の晩飯と雑貨を買いに行こうと思っていた。自宅とは逆方面に約十分。本当に不便な場所にあるものだ。我が家は家賃が安いぶん、立地が良くないんだ。
なぜかは知らないが、アイツも行き先が同じだった。アイツにとっては家から近いらしい。アイツからは行き先を変更するつもりはないらしかった。
なんせ、
「あんたのせいで行先を変えるつもりはない」
だとか
「あんたが来なければいい」
とかいいだすんだ。こっちもあのショッピングセンターくらいしか近所にないから仕方なくいくんだよ。こちらも同じ言葉をお返しさせてもらおうじゃないか。
「園崎に反抗しても無駄だと気づいた。俺はお前と一緒だということくらいでイラつくような器の小さい人間ではないからな」
「ふざけんなよっていったのはどこの誰かさんでしょうね」
「それは反射的に出てしまっただけだ。俺は悪くない」
見苦しすぎる言い訳だな。園崎にすぐに痛いところをつかれてしまいそうだ。
「まあいいわ。お互いのためにも、さっさと買い物は終わらせましょう」
「その通りだ」
不穏な空気が流れる中、無言で歩き続ける。
しばらくすると、目的地である「AON」のロゴが見えてきた。自動ドアを抜け、店内へと入る。
一階の食料品コーナーだ。休日ということもあり、ベビーカーを押している家族連れから、お年寄りまで幅広い世代がいる。店内はそこそこ混んでいる。俺がカゴを取ろうとする前に、園崎にひとつ確認しなくちゃいけないことがある。
「もちろん別行動だよな」
「申し訳ないんだけど……食料品売り場だけは付き合いなさいよ」
「なぜそんな選択を」
「お一人様点までのやつを、できるだけたくさん買って来いって」
ひとりでいかせておいて「お一人様一点」までのやつを複数買わせるってどんな神経してんだ。アイツのことだから、複数個入れておきながら「あ?」とかいって脅して押し切りそうだな。もし何度もやっていたら出禁確定だろが。
「いつもってどういうことだ」
「ふだんは近くにいるおじさまがたに頼んでんのよ。営業スマイルを作って可愛い声でいってやるとホイホイ買ってきてくれるのよ。男ってほんとチョロいわね」
「お前は最低か」
「結果のためなら過程なんてどうだっていいのよ」
こんな人にはなりたくないと心から思った。
「そんな汚いところばかり見せてると、真白に嫌われるぞ」
園崎は我に帰ったらしく、驚きのあまり口を手で塞いでしまった。
「大丈夫、園崎のお姉ちゃん、おもしろいね」
穢れのない微笑みだった。園崎、営業スマイルとか作ってんじゃねえよ……心の底から可愛い笑顔を作ってる子に失礼だと思わんのか。
「真白ちゃん、あなたは天使なの……?」
「園崎のお姉ちゃんも、ふつうにしてたらもっと可愛いのに」
「ありがとう! あたし、明日から頑張ってみるね」
絶対やらないやつやん。「明日から本気出す」とか「休みになったら勉強頑張る」とか「いつかやるよ」は絶対やらないからな。もはや死亡フラグ的な扱いだよ。
「真白のためなら頑張れそうダナー」
「ぜったいあんたはそう思ってないでしょ」
「当たり前だ。なんせ俺は園崎のことなど微塵も信頼していないからな」
「あたしだって、あんたのことは雇う雇われるの関係だから少しはあんたへの暴力だとか色々抑えるだけだから。信頼も、友情も、期待も、何にもしてないから」
ああ、また強く出てしまった、生まれ持って抑えられない
「お兄も園崎のお姉ちゃんに好かれるように頑張ってね!」
「わかった、明日から頑張る」
別の客が来てしまったので、俺はカゴを二つ取り、店内へと入っていった。
「真白、今日の飯は何がいい?」
「お寿司!」
「オーケーだ」
「あんた、それだけで栄養足りると思ってるの。タンパク質全然なさそうじゃない。ちょっとお寿司コーナーにいく前に、まずはこっちを見なさい」
アイツは、カゴを持っていない左で、俺の腕を強引に掴んできた。
「いいから早く!」
「おい、離せ。語り合えばわかる。まずは解放してくれ」
アイツは何も反応することなく、レジの横を抜けたのち、左に曲がって進んでしまう。いったいどこに向かわせるというんだ。
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