隣の席のツンデレ女を雇ったら、疎遠だった幼馴染からの好感度がなぜか爆上がりしたんだが

まちかぜ レオン

プロローグ 大嫌いなアイツ〜どうしてあなたが家政婦に?〜

第1話 隣の席のアイツ

「は? また浦尾うらおと隣? 信じられないんだけど。まじ死ね」


園崎そのざきの命令で死ぬなんて、死んでも嫌だね」


「死んでくれる意志はあるみたいね。ならさっさと目の前から失せなさいよ、このクズ人間」


 高校生活、待ち望んだはじめての席替え。隣の席になったのは。前回と同じアイツだった。


「そんなの無理に決まってま……ウゴッ!!」


 アイツの容赦ない右ストレートが、俺の横腹に炸裂する。あまりの強さに、昼に食べたものが逆流しそうになった。


「あんたが私に反論する余地なんてないから。あんたはあたしより下の立場にいるの。ドゥーユーアンダースタン?」


「くっ、腹立つな」


 痛覚はいまだに腹の中を駆け巡っている。こういう結末をむかえるのは、一度や二度のことではない。


 来る日も来る日も、アイツからの理由なきパワハラ三昧。おかげで、すでに俺の学園生活は灰色に染まっている。


 憎い、許せない、絶対。


 アイツの名前は園崎真琴そのざきまこと。暴力沙汰は通常運行、口を開けば罵詈雑言、無視をしようとうざ絡み。危険度マックスの性悪女だ。


 髪は、黒くて長めのツインテール。つねに人に暴力をふるっているせいか、髪はよく乱れている。


 いつも不機嫌そうな表情で、可愛げがない。


 他の男子にも容赦なく暴力を振るっているが、俺に対しては特にひどい。些細なことに過剰反応し、無駄にキレる。


 この前なんか、「あんたの顔、見てて腹立つ」という理不尽な理由で背中に蹴りを一発入れてきた。顔なんてどうしようもないだろうが。


「わかった、反論はしない。これからもよろ……」


「誰があんたに『よろしく』なんて言葉をかけると思ってるの? ありえないんだけど」


「はい、すみません」


「まあ、せいぜい気をつけることね」


 最初から最後まで刺々しいんだよな。毒舌すぎてメンタルが削れそうだ。



 席替えという名の特別活動の時間が終わり、休み時間を迎えた。俺はすぐに席を立ち、友人の元へ向かう。


「いやあ、一樹かずき、今日も災難だったなあ」


「雷堂、わかってくれるのはお前を含めたその他大勢くらいだよ」


「一樹、なんだか園崎の毒舌が移ってないか? 俺、希少価値の低さに絶望しそうだぞ」


 友人の名は、不破雷堂ふわらいどう。メガネがよく似合う重度のオタク。


 数少ない友人のひとりで、よく園崎の愚痴を吐かせてもらっている。


「もちろん冗談だよ。わかってくれるのは雷堂くらいだから」


「一樹アニキ、一生ついていきます」


「ついてくるといい、我が弟よ」


「そういえば、気の毒なことになっちまったらしいじゃないすかアニキ。また暴力女と隣になっただとか」


「そうさ。そのせいで俺はつらいんだ。でもな、少し耐えられたら、いつかは悟りの境地に至れるはずなんだ。痛みも、恐怖も、苛立ちも────何も感じなくなるときが来るはずなんだ」


 ブラックな仕事環境に耐え続けたために、徐々に精神を壊していく人間の末路が見えた気がする。


 そうやってブラックな職場から抜け出せなくなるんだろうな。先が危ぶまれる。


「辛いときは溜め込んじゃダメだぞ。まずはこの雷堂に吐いてみろ。俺がすべて受け止めてやるから」


「弟よ……」


 そんなくだらないことを語らっていたら、チャイムが鳴ってしまった。


「いけねえ、じゃあ雷堂。あとでメッセージで相談させてくれ」


「りょーかい」


 雷堂はキメ顔でサムズアップをする。お前はカッコいいと思っているんだろうが、残念ながら決まっていないぞ。ドンマイ。



 帰りのホームルームもすぐ終わり、解散となった。帰宅部の俺はまっすぐ帰路に着くだけだ。雷堂は囲碁将棋部なのでここでお別れ。


 とにかく、俺は園崎から解放される。どんなに待ち望んでいただろうか、この時を……。


 さらば、園崎!! 


 さあ、夢と希望のマイホームへゆこう。


ーーーーーー

あとがき


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