第8話 平折と南條さん①
「あんだか、不思議な感じですね」
「……そうだな」
目の前のちんまい少年――
ゲームの機能を確認しているのだろうか? 体験版トライアルモードと違って、出来る事は増えるという話だが。
「とりあえず、フレンド登録しようか?」
「フレンド?」
「ゲーム内のお気に入りメンバーの登録だ」
「?」
よくわかっていない風な南條凛に、百聞は一見に如かずだろうとこちらから申請を飛ばした。
南條凛の画面の前には、【はい いいえ】の確認メッセージが届いているはずだ。
……
だというのに、こちら側の申請中のシステムメッセージが消えない。
一体どうしたのだろうか?
『ねぇ! これって【はい】のとこを押せばいいの?!』
――っ?!
突然のスマホの音に、ビックリしてしまった。
何故こちらの方に……?
『そうだ。これでゲーム内で遠くにいたとしても、フレンド欄からメッセージを送ることが出来る』
『なるほどね、体験版では出来なかった機能だわ。……ふふっ、
『……そうだな』
『
先日の非常階段の事を思い出した。
告白もある意味、
――答えにくいな……
目の前にいる
「よろしく、お願いしまs」
「あぁ、よろしく」
たどたどしい文章だった。
スマホでのメッセージは流暢だというのに、キーボードでの入力となると慣れていないのだろうか?
しかしそれが、いかにも初心者だということが強く印象付けられる。
普段の優等生然とした姿を知っているだけに、何やら新鮮だった。
「クライス君! ……その人が?」
「ひ……フィーさん」
そうこうしている内に、平折がこちらに戻ってきた。
きょとんとした表情で、じろじろと
長年付き合ってきた感覚で、『はぇ~』『ほぉ~』といった意外そうな反応をしているのが分かる。
――俺だって、こんな
「フィーさん、紹介するよ。こいつはサンク……まぁ右も左もわからない初心者だ。それからサンク、このケモ耳っ子がフィーリアさん。魔法系の事に関して色々知っている。そっち方面で気になる事があったらフィーさんに聞くといい」
「よろしくね、サンク君!」
「よろしく、お願いします」
俺の紹介で、互いに挨拶する2人。
ただぺこりと頭を下げるだけの
対照的な2人だった。
学校での2人を知っているだけに、むず痒いような、何とも言えない不思議な気分になった。
自分勝手な希望だが、ゲームでも2人が仲良くなれば良いと思う。
そして、いつかリアルでも――
「(――っ)」
何故だろう?
それはとてもいいことのハズだ。2人にとって、仲が深まるきっかけになるかもしれないのだ。
だというのに、胸の奥に何か棘の様なものが刺さった感じがしてしまった。
まるでお前は――――というような、厭な疼きを感じてしまう。
――馬鹿馬鹿しい。
そんな痛みを誤魔化すかのように、胸に手を当て画面へと意識を戻した。
目の前では
どうやら南條凛は、平折ともフレンド登録を交わしたようだった。
和気あいあいとしている姿をみて、ホッと胸に添えたままだった腕をなでおろす。
他にも平折は、手持ちのお洒落アバターに着替えまくっては南條凛に見せびらかしていた。
そのラインナップは可愛らしいものから綺麗なもの、変わり種まで様々な種類がある。
よくもまぁ、揃えたものだと思う。
南條凛も女の子だ。そういったおしゃれなものに興味があるのか、食い入るように見ていた。
そして、ある衣装にひときわ強く反応していた。
「! それ!」
「あ、これ可愛いでしょー、もらうのに苦労したんだから!」
それは鳥の羽をあしらった純白のワンピースの衣装だった。細部は金糸の刺繍が施されており、キャラのけもみみにも金のイヤリングがきらりと光っている。
件のからあげでもらえる、コラボアバターだった。
そういえば、からあげだけ弁当のせいで、南條凛と知り合ったんだっけか……
「かわいい!」
「まだ貰う事ができるよ」
「! ほんと?!」
「か、からあげ一杯食べないとだけどね。あはは……」
心なしか、南條凛がそわそわしているような気がした。
色々と平折にアバターの入手方法とかを聞いている。
……まさか、ね?
ともかく、
学校でも仲良さそうにしているんだ。だから――
「そうだ! クライス君、サンク君、せっかくだしパーティ組んでダンジョンに行こうよ!」
「! 行って、みたいです!」
「……そうだな」
だというのに、はしゃぐ2人を見て胸が軋んでしまっていた。
俺は――
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