星が降った日
(1)暗闇の中で
ある夜カイは、目を覚ました。
いや、目を覚ましてしまった。
この感覚。まずい。実にまずい。
すぐに嫌な予感を察知したカイは、慌てるように時計の方に目を投げた。
二つの針は文字盤の12の上で、仲良さげに重なり合っている。
それがカイにとって重大な事態だなんて、知りもせずに。
夜の寝室に、少年がぽつんと独り。
すっかり細くなった月の光が窓から申し訳程度に差し込む。
額にうっすらと汗。やはり、まずい。
その夜、ベッドの上にて緊急会議が行われることになった。
カイは前から自分の頭の中に、他にあと二人いる事を知っていた。
二人の自分はこういう緊急の時になると頭から飛び出し、そして頭上で激論を交わし始めるのだった。
今夜の議題はこうである。
この夜の闇の中たった一人で、トイレへ行くか否か。
片方が言う。
『ここのところ月の光も弱い。おかげで部屋も廊下も、すっかり暗闇に包まれているだろう。この闇の中、トイレまでの道のりを進むのはあまりに無謀だ。』
もう片方が返す。
『しかし、朝まで凌ぐにはこの波はあまりに大きすぎる。今なんとかこれに対処せねば、問題を先延ばしにするだけだ。』
食い気味に。
『そんな事は分かっている!しかし夜の闇の危険は未知数だ。暗がりに何が潜んでいるか、わかったもんじゃない。無防備な状態で背後から襲われたらどうするというんだ?』
負けじともう片方。
『逃げてばかりでは何も解決しない!以前だってそうやって出撃を断念して、翌朝ベッドにシミを作っていたじゃないか!』
カイは思い出して恥ずかしくなった。あれをやる訳にはいかない。
苦渋の決断だったが、嫌なことを思い出してしまったカイは自分のプライドにかけて、二人目の主張をのんだ。
そっと拳を握りしめる。
少年の、小さな戦いが始まった。
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