第七章 代表決定戦が始まる
「タック」
船は再び急激に回転する。私は逆のデッキに飛び込もうとして一瞬動きを止めた。船の回転がちょっと遅くなる。マリの操舵を感じる。中腰でぐっと堪える。
「もう少しだ」
そう彼女の口が動くのが見える。風が数センチシフトした。
マリは絶妙に船の角度を調整している。私はその動きを読みながら中腰でバランスを取る。ジブシートをこぶし一つ分緩める。
「バシン」
マリがコースを決めた。
メインセールとジブセールが同時に硬い翼となる。彼女たちの船はオーストラリア艇の内側をすり抜けて加速する。
彼らは優先権のあるハルたちにも追い込まれた。その上、内側からは自分達の船に先行されてしまったのだ。やむなくスピードを落とす。
そして私達は一気に内側からマークを回る。
そのすぐ先にはハルの船尾が見える。ハルがちらっとこちらを見た。もう少しだ。
マークを回ると今度はダウンウイドウのレグだ。
ハルたちは完璧な操舵を見せた。スピンがロケットのようにマストへ上がって行く。「カシン」
スピンポールがセットされた。全くスキががない。そのまま勢いを殺さずダウンウインドウをつかんですっ飛んでゆく。
「スピン上げるぞ」
私は流れるようにスピンをセットした。
「カシン」
スピンポールがスピンネーカーを高々と掲げる。風をいっぱいにはらむ。私達はハルに対抗して追い風のポジションを取る。前を行くハルをしゃにむに追いかける。
速い。
私にとってこれが初めて間近に見る見るハルの走りだ。全く無駄がない。今日のような波が荒い時でも、船がぶれない。さすがに日本で一番のスキッパーだ。
「流石にできるね」
マリも同じ感想を持ったのだろう。同じ感想を口にした。
レースは終盤にかかってゆく。レースのトップはハルたちだ。その次に私達、そして海外勢が続き、十位前後にヒメたちがつけている。
序盤で私達を抑えるためのコース取りが命取りになった。挽回は難しいポジションといえよう。
結局、ハルたちはトップでフィニッシュ。私達は上りマークて差を詰め、下りで引き離される、これを繰り返しながらもジリジリと差をつけられ、二位でフィニッシュラインを切った。
第一レースが終わった。私達は港に船を回航する。ヨットハーバーのスロープから艇を引き上げた。自分達に割り当てられた場所に船をトローリーで引いて行く。
「悪くない出だしだね」
マリと目でうなづきあった。まだまだ気温は高い。
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