1. 依頼者:相田 三葉
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ドアをノックする音が室内に響き渡った。
来客なんて珍しい。
顧問の近藤先生だろうか。
もしかしたら、所属人数が一向に増えないこの探偵同好会に引導を渡しに来たのかもしれない。
「どうぞ、開いてますよ」
入室を促した声に反応して扉が開くと、現れたのは長いおさげが特徴的な女子生徒だった。
「失礼するわね……あれ、キミ女の子?」
「い、いえ、男です……」
「あら、ごめんね。可愛いから間違えちゃった。似合ってるわよ、その髪」
「あ、ありがとうございます……」
少しの物怖じもなく、女子生徒は堂々と部室を横切ってこちらへ向かってきた。
緩く大きな三つ編みに結われた後ろ髪が歩く度に跳ね、まるで尻尾のようだ。
この特徴には見覚えがある、確か部長会議に参加していた――
「えっと、写真部の部長さんでしたよね? 何か御用ですか?」
「私のこと知ってるのね。さすがは探偵部の部員さんってところかしら?」
「あはは、今は探偵同好会なんですけどね……会員もボク一人の有様ですし」
「そうなの? まあ部でも同好会でもどっちでもいいわ。事件を解決してくれるのならね」
「事件……ですか?」
『そうら見たことか、シオン。やってきたぜぇ、謎が』
女子生徒の背後に立ちながら、サナがドヤっとした笑顔を見せた。
女子生徒にはサナの姿は見えていないし、声も聞こえていない。
サナを認識できるのは契約対象であるシオンだけだ。
シオンは心の中でサナへ言葉を送った。
『いまは来客対応中なんだから、サナは静かにしてて』
『間違ってもこの機を逃がすなんてヘマはするなよ? なんせこの女が運んできた謎は今までで最高の謎なんだからよ』
「どうかしたの? 変な顔してるけど……もしかして迷惑だった? キミひとりになってからは依頼は受け付けてないとか?」
「い、いえっ、そんなことないです。ただ、久しぶりの依頼だったので驚いちゃって。僕の名前は
「思音くんね、よろしく。私は三年の
「よろしくお願いします、相田先輩。それで、事件というのは?」
ミステリー好きのサナが興奮するほどの謎だ。
ここは学校ではあるが、文字通りの事件が起きたのだとしても驚かない心の準備はできている。
「プリン泥棒を探して欲しいのよ」
「……プリン?」
「そう、私のプリンを勝手に食べた不逞の輩を探し出してちょうだい!」
泥棒。
人の物を盗んだのであれば、それは確かに犯罪だ。
事件と呼称しても差し支えないだろう。
しかし、プリンか……。
「そうですか……。プリン泥棒……ですか……」
最高の謎がやってきた。
そう豪語していたサナを一瞥すると、彼女はペロリと舌を出しながら自身の頭を小突いて見せた。
もう二度とこの淫魔の謎センサーは信用しないとシオンは心に誓った。
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