第8話
飲んで食ってどんちゃん騒ぎした次の日の朝。
私達は町のギルドを訪れていた。
「――先日のベルガ討伐依頼の件、確認が取れました……どうぞこちらが報酬です」
受付のお姉さんがカウンター越しに差し出した小袋いっぱいの金貨。
この世界の貨幣価値はさっぱり分からないため、先日の焼肉の会計で換算すると大体30回分くらいにはなりそうな量であった。
冒険者が命を賭けて得る報酬として考えると正直微妙な所なのかもしれない。
「……で、私達はこれからどうするわけ?」
報酬を山分けした(ドラコは戦ってないけど)所で私は今更な事を口にした。
その場のノリで魔物を討伐したり仲間が増えたりしたのだが……私達の旅にはまだこれといった目的が存在していなかったのだ。
「えっ!! あんたら当てもなく旅してたのかい!? はっははそりゃ面白いな!!」
「……意外な反応!?」
ドラコは私の優柔不断な発言に困る訳でもなく怒る訳でもなく、ただ笑っている。
「最高だなあんたら、マジで私ら運命の出会いかもしれんぜ」
余程ツボに入ったのか結構な時間笑い続けていたドラコは思い出したかのように道端に落ちていた一切れの棒を拾い、それを私達の方へと向けた。
「なんですか~その小汚い棒きれは~?」
「案内役さ、私も故郷から旅立ったは良いが特に目的無くてね……こいつの気紛れが示すがまま、ここに辿り着いた」
「ぷぷっ、貴方は馬と鹿の融合体なんですか~?」
今度はメイガスがドラコに指を差して笑い始めた。
「いや、メイガスには言われたくないでしょ」
……因みにこの世界の馬と鹿のキメラの知能は全種族最低クラスだそうな。
そんな豆知識は置いといて、つまりここにいるメンバー全員旅の目的がない冒険者か。
どうりでドラコが笑ってた訳だ。
「まったく……私が今から目的が無いこのパーティに目的を与えてやろうってのに、随分な言われようだな……まぁいいか、いいな? 恨みっこ無しだぞ」
そう言うとドラコは誰の許可も得ずにその場で棒倒しを始めた。
何もないよりはマシかと皆が一旦棒の行方に注目する。
「――よし、ここから東だな、メイガスここから東で一番近い町は?」
「呆れた……本当に棒倒しで目的地を決めるなんて、どれ取り敢えず地図だけは見てやりますか………………おやおや、これは?」
メイガスは苦笑いを浮かべながら興味深げに地図を見つめる。
「おいおい!! どうしたんだ? 面白そうな町か? ここは……」
ドラコは興味津々でメイガスの見ていた地図を覗き見たのだが……地図を見るや否やみるみる血の気が引いていき顔をが青ざめていく。
「えっ、ちょ、どういう事ドラコ? メイガス?」
メイガスは皮肉が込められた感じの笑顔で私の質問に答えた。
「ルミンより東の町は英雄都市リュウジ……人魔戦争の功労者の一人、異世界人サクラリュウジの功績を称えその記念として占領地に築かれた、魔族にとっては近寄りたくもない醜悪な都市の一つですね」
異世界人の功績って事は魔族にとっては反対の意味になる、どうりで二人の表情が暗くなるわけだ。
「はぁー全くよぉ胸糞悪くなるぜ少し昔は人も魔族も対等な知的生命として競い合い時に助け合いの共生関係だったのに……最近増えた異世界人の馬鹿どもが世界の均衡を完全に変えちまいやがってよ」
「そうなんだ……」
ドラコはいつになくまじめな面持ちでそう話す。
「異世界人の多くは人こそが善で魔が悪という偽りの正義を騙り、己の承認欲求を満たすために天より得た強大な力で魔族を叩き、そしてその圧倒的な力の盾を背景に勘違いした人間はどんどん増長し世界はおかしくなっていきやがる一方だ」
「本当に滑稽な話ですよ……私は悠久の時を過ごし、人間とも魔族とも旅をしてどちらの側にも善も悪も存在する事を知っていますから……邪魔だから、考えが違うから別種族を潰すなんていう幼稚な発想を抱く異世界人と愚民どもには反吐が出ますね」
全員の表情が曇っている。
人間の語る正義とやらで魔族は苦しんでいる、そう考えさせられたのは初めてだ。
そんな重たい場の空気を変えたのはメイガスの発言だった。
「――しかしドラコこの導きは本当にあなたの言う通り【運命】かもしれませんよ」
「えっ、何をいきなり――」
何を言い出したんだこいつという表情でメイガスを見るドラコ。
メイガスはそんなことは気にも留めず超ド級のとんでもない事を口走った。
「英雄都市リュウジのある地域は元々スライム国の首都ハーヴェスト……物語の始まりはスライムと相場は決まっているし丁度いい機会です、龍の導きに従い、かの地を目指し……腹いせがてら派手に暴れて我ら魔族の同士達とその故郷を解放して差し上げましょう!!! ルイ様!!!!!」
「なにそれ!? 随分と唐突ッ!?」
「おいおいちょっと待て! そりゃ無いぜ! 流石のアンタでも転生者を、いや……いきなり国を敵に回そうだなんてどうかしてる!!!」
あまりに突拍子もないメイガスの発言に私だけでなくドラコもかなり慌てている様子だ。
そう、あくまで私達はただの冒険者。
その冒険者が一都市に……いや一国にいきなりケンカを売るなんて馬鹿げている。
だがメイガスの眼は本気であった。
「――その話、伝説の冒険者メイガスとしての言葉だとはとても思えん、あまりにも突飛すぎだ……目的地を変えよう」
一周回って呆れた表情を浮かべるドラコに対し、余裕綽々の表情でチッチッチッと指を振るメイガスどうやら何か考えがあるようだ。
「おやおや、この私が勝てる見込みも無くそんな話をするとお思いで? 先程も言いましたが元々あの地域はスライム族の住処、現在は人間も多少なりとも移住しているようですが数には多く隔たりがありますよ~そしてあと三つ……あの都市には弱点があります」
一見荒唐無稽に思われるメイガスの発言。
しかしそれは勝算があるロジックに裏付けられた発言である事を私達は思い知らされる。
――先程ドラコが何気なく拾った道端の一切れの棒。
私とドラコは気が付けなかった。
この棒に細く見えない魔法の糸が括り付けられていた事に。
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