第2節 作戦篇

第95話 孫子曰、凡用兵之法、馳車千駟、革車千乘、帯甲十萬、千里饋糧、則内外之費、賓客之用、膠漆之材、車甲之奉、日費千金、然後十萬之師拳矣

遥香は、復習の意味で、『始計篇』に続いて『作戦篇』も読み返していた。

そして確認すべきことを忘れていないかを、再度チェックしていた。

今、遥香は実際に投資を始めようとしている。

だから、今回からは、経費なども意識しなければならないのだ。



――【孫子】――――――――――――――――――

戦争を行なうには、例えば、戦車1千台、補給車1千台、兵卒10万人からなる部隊を、補給物資を本国から輸送して千里の彼方に遠征させる場合、国内外の経費、外交費用、武器の補充費用、食料の補給費用等併せると、1日1千金もの大金が必要となる。

つまり、これだけの費用が無ければ、総兵力10万人もの大軍を動かすことはできないのである。

――――――――――――――――――――――――


――【投資】――――――――――――――――――

そこで、実際に株式投資を始めるには、例えば、100万円の元金で証券会社に口座を開設し、信用取引契約をして300万円程度の投資をする場合、情報料、口座管理料、売買手数料、日歩、逆日歩等を合わせると、1日当たり数百円から数千円程度の維持費が必要となる。つまり、これだけの費用が無ければ、投資をすることはできないのである。

――――――――――――――――――――――――



その昔、売買手数料は、取引額の1%だった。

100万円の銘柄を買えば、1万円の手数料が必要だったのだ。

だから、その往復では2万円になる。

つまり、1度の売買で2%以上の利益が出なければ、取りガミになっていたのだ。



それが今や売買手数料は高くて1/10の千円、安いところでは無料というところもある。

だからと言って、無意味な売買を繰り返せば、手数料だけが膨らんで、想定したほど利益が積みあがらない。

だから、不要な売買は、可能な限り削るべきなのだ。



そこで遥香は、最初は売買する銘柄を絞ろうと考えている。

よろずのから教わった四季報の読み取りで、売買する銘柄を事前に決めておくのだ。

業績の良い銘柄は、売られても、再度買われる可能性が高い。

つまり、株価が騰がる方向にベクトルが働いている。

スイングトレードをやると決めても、銘柄は好業績に絞ることがリスクヘッジになると聞いていた。



よろずのの四季報を使った銘柄選択方法は、『儲けの鉄則』を書いた小〇秀希のもう一冊の著書である『初心者にもできる大バケ株を掘りあてる3つの法則』によるものだ。

遥香も、その方法を教わって、今回の『会社四季報 夏号』で、その通りの銘柄を選んだ。

業績欄をチェックし、付箋を貼る。

よろずのは半日で終わると言うが、遥香は丸三日かかった。

その成果が、これだ。



1739 SEEDH

1771 日本乾溜

1892 徳倉建

1999 サイタHD

2768 双日

2790 ナフコ

2974 大英産業

2981 ランディックス

2986 LAHD

3228 三栄建築

3238 セントラル総

3244 サムティ

3294 イーグランド

3320 クロスプラス

3374 内外テック

3417 大木ヘルスケア

3431 宮地エンジ

3446 JTECCORP

3454 ファーストブラザーズ

3465 ケイアイスター不動産

3475 グッドコムアセット

3477 フォーライフ

3482 ロードスター

3486 グローバルリンクM

3489 フェイスネットワーク

3490 アズ企画設計

3495 香陵住販

3538 ウイルプラスHD

3856 Abalance

3943 大石産

3946 トーモク

4171 グローバルI

4361 川口化

4764 NexusB

4828 ビーエンジ

4887 サワイグループHD

4918 アイビー

4935 リベルタ

5632 三菱製鋼

5644 メタルアート

5702 大紀アルミ

5852 アーレスティ

5975 東プレ

6125 岡本工機

6158 和井田

6190 PXB

6230 SANEI

6267 ゼネパッカー

6293 日精樹脂

6294 オカダアイヨン

6393 油研工

6516 山洋電気

6557 gbHD

6623 愛知電

6629 テクノホライゾン

6694 ズーム

6787 メイコー

6797 名古屋電

6942 ソフィアHD

6957 芝浦電子

7036 イーエムネットJ

7039 ブリッジ

7064 ハウテレビジョン

7097 さくらさく

7173 東京きらぼしFG

7177 GMOFHD

7227 アスカ

7228 デイトナ

7363 ベビーカレンダー

7370 Enjin

7419 ノジマ

7425 初穂商事

7466 SPK

7688 ミアヘルサ

7928 旭化学

8591 オリックス

8877 エスリード

8886 ウッドフレンス

8890 レーサム

8891 AMGHD

8903 サンウッド

8999 グランディ

9233 アジア航測

9274 国際紙パルプ商事

9385 ショーエイコーポ

9842 アークランド

9972 アルテック



これで一先ず、損切りリスクは低くなった、なっていて欲しいと遥香は考えている。

なんせ、まだ実地で試していない。

これからが本番なのだ。



そんな時、ふとよろずのと結衣の会話を思い出した。

結衣が、情報料がもったいないと言って、揉めていた時のことだ。



「あたしみたいに信用をやらなかったら、日歩、逆日歩は要らないでしょ。口座管理料なんて今の時代は無いし、そしたら、情報料と売買手数料くらい。売買しないと手数料はかからないし、あたし情報なんて買わないよ。」

「投資本は買いません?」

「それは買う。でも、それはたまによ、たまに。」

「課長、投資にお金使って無いのが良いことだと思ってません?」

「それは、ちょっとは思ってる。ただ、必要な費用はケチらないわよ。必要な部分は払うわよ。」

「必要な部分って、どんな部分ですか?」

「それはその・・・、ケースバイケースよ。」

「投資に必要なお金はケチらない方が良いですよ。課長の考えでは、まだまだケチってる方になります。課長なら、『どんどん使っちゃえ~』と思って下さい。」

「つまりあたしはケチだから、ジャンジャン使う気でいろと、萬野くんは言いたいのね。」

「ケチが悪いんじゃ無いですよ。ケチは、お金の重要性を理解できているってことですからね。ただ、お金の価値を重く捉え過ぎたら、他のものの価値を見失うことになる。だから、お金の相対的価値を正しく見積もらないとダメなんです。投資で成功すれば、必要経費なんか直ぐに回収できるでしょ。」

「まぁ、それはそうね。」

「課長を必要経費の支払いを自分の投資能力向上に対する投資だと考えずに、単なる消費だと考えているんですよ。だから、僕の考えより、財布の紐が固くなるんですよ。」

「なるほど。」

「だからと言って、バカバカ使うもんじゃ無いです。しっかりと意識して、投資能力向上の為に使って下さい。」

「まぁ、本のことは分かったわ。でも、他のことはどうなの?ここの部分って、必要経費がかかるから、安易に投資するなってことだよね。」

「そうです。ただ、課長の場合は、最初に林野から色々聞いたでしょ。だから、普通の初心者より、かなり慎重にやってますよね。だから、課長の為に言い換えると、ジャンジャン使えってことなんです。」

「分かったわ。」



この時、よろずのは結衣の感覚に寄り添って注意していた。

人の感覚ほど、当てにならないものはない。

本人は努力しているつもりでも、周囲から見ればそう見えないことも多い。

これは全て、相対的判断に基づいているからだ。

人は、自分の過去の経験から多くを判断する。

努力したことが無い人からすれば、少しでも頑張っていれば努力していると認識する。

反対に、努力し続けている人からすれば、頑張っているだけでは努力したことにはならない。

だから、必要な努力を求めるなら、人毎に言葉を変える必要が出て来る。

ある人には、死ぬ気で努力しろと言わなければならない。

ある人には、普段どおりで良いと言わなければならない。

そんなことも、遥香はよろずのから教わっていた。

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