第85話 法者曲制官道主用也
投資では、投資法に合う銘柄を探すのが一般的だ。
しかし、よろずのの教えは違っていた。
目的を達成するためには、相場環境の助けが必要になる。
その助けに拠って、調理し易い銘柄が生まれてくる。
その銘柄を、どのような方法で調理するかによって、味は違って来る。
「来客に出す料理なら、メニューを決めてから買い出しをする。でも、普段の夕飯なら、冷蔵庫にあるもので料理するだろ。いつも来客があるとは限らないから、普段の夕飯を作るような感じで良いんだよ。」
こう言われた時は、『なるほどぉ~~』と思った。
が、今は違う。
「それは何でも作れる上手な人の言葉でしょ。料理が余り得意でない人は、得意料理が一品でもあれば十分なのよ!!」
遥香は、今の自分の実力が、よろずのの言葉通りにはならないことが、嫌でもわかっている。
――【孫子】――――――――――――――――――
『法』とは、軍隊統制に関する法令、政務、組織等規範的条件のことである。
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――【投資】――――――――――――――――――
『方法』とは、投資に関するやり方とか決め事、原理原則なども含めた手段的条件のことである。
――――――――――――――――――――――――
もう、耳に
『損切り』投資法と『戻り待ち』投資法だ。
『損切り』投資法とは、見込み違いで株価が下がった時は、直ぐに売却、つまり損切りをして被害を最小限度に抑える投資法だ。
この投資法の利点は、資金拘束されて投資チャンスを見逃すことがないことだ。
欠点は、損失の確定という心理的負担が多少なりともかかることだ。
『戻り待ち』投資法とは、見込み違いで株価が下がった時は、ゆっくりと買い下がり、元値に戻るのを待つことにより、最小限度に抑える投資法だ。
この投資法の利点は、損失の確定という心理的負担を回避できることだ。
欠点は、元値に戻るのがいつか分からず、戻るまでは資金拘束されることから、投資チャンスを失うこともあるというところだ。
遥香は、投資法は『損切り』投資法にすると決めている。
若いときは、時間が十分あるのだから、『戻り待ち』投資法を採用するべきだとよろずのは教えてくれた。
ただ、『戻り待ち』投資法は、投資を学ぶ上では、多少時間がかかるとも言われた。
その点、『損切り』投資法は、学ぶのに時間はかからない。
だから遥香は、学び終えるまでは、『損切り』投資法をやることに決めたのだ。
このことをよろずのに相談すると、励ましてくれた。
「自分でそう決めたのなら、頑張れ!!」
ところで遥香は、投資法の説明をしてもらっている時に、気になることがあった。
『投資法と銘柄によって、心や時期、環境は異なるのか?』と言うのがそれだった。
よろずのは、そうだと言った後に、逆だと付け加えた。
それは、心や時期、環境によって、投資法と銘柄を変えるべきと言う意味だ。
投資法や銘柄の組み合わせは、幾らでも存在する。
しかし、自分の心は、一つしか無い。
その心を投資法に合わせて変えるのと、投資法に合わせて心を変えるのとでは、どちらがやりやすいだろうか?
例えば、『損切り』が出来ないと言う投資家の悩みは、よく聞く。
これは、5つの条件では、『寡欲(改め目的)』、つまり心の条件だ。
『損切り』出来るように努力するのは良いことだ。
努力の結果、『損切り』出来るようになったら、投資の幅は広がるからだ。
でも、幾ら努力しても、『損切り』出来るようにならなかったらどうだろうか?
努力することに疲れて、投資の世界から去るくらいなら、『損切り』しようと思わず、『損切り』しない投資法を選択すれば良いだろう。
そう言う意味で、よろずのは『逆』だと言ったのだ。
「なるほど。心に合わせるのかぁ~。」
「それに、環境や場味にも合わせないといけない。いくら良い銘柄を良い投資法で勝負しても、環境や場味が合っていなかったら成功しないよ。」
「なら、どんな環境や場味にも強い投資法って無いんですか?」
「あるよ。ただ、そう言う投資法は、成果が極端に小さくなる。リスクが小さいのに、リターンが大きいことはあり得ないからね。まぁ、誰も気づいていないのがあれば、別だけどね。」
「誰も気づいてないの?」
「誰も知らない新しい投資法なら一人だけのものだよ。だから、ローリスク=ハイリターンも可能だね。」
「そう言うことかぁ~。」
そう言って、このとき遥香は考えた。
遥香は、自分で研究して、新しいものを発見、発明することが大好きだ。
だから、そういうものに遭遇すると、ついつい目の色が変わってしまう。
「でも、これまで多くの人が自分だけの投資法を探そうと頑張って来ている。だから、そう簡単には、自分だけの新しい投資法なんて、考え出せないよ。まずは、色々な投資法を真似て、リニューアルするところからだね。」
最後によろずのはそう言っていた。
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