第60話 弟子、よろずののおススメを知る

遥香に尋ねられた投資本の内容について、よろずのは丁寧に答えた。

丁度、一息ついたところで、結衣が紅茶を淹れてきた。


「ちょっと休憩したら。」

「あ、今日は何??」


遥香は、紅茶より、茶菓子の方が気になっていた。


「今日は、らぽっぽのアップルパイ。」


結衣がそう言うと、遥香の口からよだれが垂れそうになった。



「ところで萬野くん。今日はどこかに行ってたの!?」


暫くしたところで結衣がよろずのに尋ねた。


「いえ、どうしてですか??」

「いつもてぶらなのに、今日はカバンを持って来てるじゃない。」

「あ、これですか!?」


そう言いながら、よろずのは3冊の本を取り出した。



よろずのが取り出した本。

それは、『相場道の極意』、『儲けの鉄則』、そして『短期売買入門』と書かれた本だった。

結衣も、遥香も、それぞれ一冊を手に取った。



結衣が手に取ったのは、『相場道の極意』という本だった。

東洋経済新聞社が1970年に初版を発行している古い本だ。

著者は、元野村証券社員の木佐〇吉太郎氏だ。

普通に考えれば、時代遅れじゃないとか感じるほど本当に古い本だった。



「これって・・・・。」


結衣がパラパラとめくりながら、よろずのに尋ねた。


「課長には紹介しませんでしたっけ!?」

「どうだろ!?あたしは読んだことない。」

「もう廃版になってて、新書は売ってないですからね。」

「そうなんだ・・・・。」


そう言いながら、結衣は興味が惹かれたように読み続けていた。



遥香が手にしたのは、『儲けの鉄則』という本だった。

ダイヤモンド社が2015年に発売した比較的新しい本だ。

著者は、元日興証券社員の小泉〇希だ。

この本は、副題の『伝説の名投資家12人に学ぶ』とあるように、12人の投資家の投資法を分かり易く解説した本だ。



遥香は、プロローグの部分を見ただけで、直ぐに読んでみたいと思った。

なぜなら、プロローグに遥香が知っている投資家であるウォーレン・バフェットの名前があったからだ。

バフェットが、『投資で成功するには頭の良さは関係ない』と言っていると書いてあるのを見て、更に心を惹かれた。

ついこの間まで、遥香は自分の才能にある程度の自信を持っていた。

神戸大学に現役で合格できる才能に、多少は自惚れていた。

ところが、よろずのの知識量の膨大さを知らされて、完全に鼻を折られていた。

よろずのに比べれば、自分の才能などは足元にも及ばないと悲観していたのだ。

それを、遥香が尊敬するバフェットが気にするなと言ってくれているような気がした。



2人が手に取らなかった本が、よろずのの手元に残った。

それが『短期売買入門』という一番分厚い本だった。

パンローリング社が2002年に発売したちょっと古い本だ。

著者は、ゲイリー=スミスという米国人トレーダーだ。

この本は、日本でいうところの日経平均連動債を中心に短期売買で生活している著者の投資法を紹介した本だ。

著者自身は米国人であることから、米国のミューチュアルファンドの売買で生計を立てている。



「ねえ、萬野くん。」


暫くすると、結衣がよろずのに話しかけた。


「はい??」

「この本って、萬野くんが言うようなことが載ってるよね。」

「そりゃぁ、そうですよ。今のタイミングで、ハルに読ませるために持って来たんです。オレが一番有益だと思っている本を持ってくるのは当然でしょ。有益というのは、オレが一番影響を受けているということです。」


よろずのがさらりと答えた。


「そっか。そうだよね。」

「そうです。どっか気になるところありましたか??」

「気になるところばかりだから言ってるの。今まで萬野くんからは話を聞くばかりだったからね。この本読んだら、教わったことの理解が深まるような気がするの。」


本をパラパラめくりながら、感慨深く結衣は話した。

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