第59話 弟子、材料の研究を優先されない理由を知る

遥香は、どうして多くの投資家は、材料の研究を、チャートの研究より優先しないのかが不思議だった。

だからそのことをよろずのに尋ねてみると、簡単に答えてくれた。


「一つは、材料で騰がったとしても、儲からないことが多いこと。」

「騰がってるのに儲からないんですか?」


遥香が尋ねる。



騰がって儲かる。

この前提には、安く買っていると言うことがある。

いくら勢い良く騰がる銘柄であっても、それを買っていなければ意味がない。

安く買えなかったら、騰がっても儲からない。

だから、材料が出た時に、安く買えるかどうかが問題になる。

実際のところは、材料が出ていて騰がるような銘柄を、安く売るような愚か者はいない。

つまり、材料を出した銘柄は、安く買えない。

だから、騰がっても儲からない。

結果、研究が後回しになるのだ。



「確かに、買えなかったら、意味無いですよね。」

「それに、材料を出して騰がるような銘柄は、そもそも売買されている量が少ない。」

「売買量が少ないんですか!?」


よろずのに言われたことを、遥香は繰り返した。



材料が出て騰がる。

そもそも騰がると言うことは、買い方より、売り方の方が少ないことを意味している。

急騰すると言うことは、売り方の方が圧倒的に少ないと言うことだ。

普段から売買量が多い銘柄であれば、材料を出しても急騰し難い。

それは、材料が出た機会に現金化を図る買い方が多く居るからだ。



先にも言ったが、株式投資は、安く買って高く売るのが基本だ。

自分が安く買っていた銘柄に材料が出て急騰している。

こういう状況になれば、売るつもりが無かった投資家も、一旦は現金化を考えるだろう。

そうなれば、売り方は増えることになり、売り方の間でチキンレースとなる。

その参加者が多ければ多いほど、安い段階で現金化を図る勢力が大きくなる。

つまるところ、それほど騰がらないという結果に落ち着く。



「売買量が多い銘柄なら、買い方も増えるってことは無いんですか?」


遥香が素人的に尋ねる。


「資金が大きい人が材料株はやらないね。いくら見つけても、余り買えなかったら、資金効率が悪くなる。だから、材料株をやってた人も、資金が増えれば他の手法に変えていくよ。」

「なるほど。」

「最後にもう一つは、材料の種類が多過ぎるってことだよね。」

「そんなに多いんですか?」

「投資法と呼ばれるものの多くは、材料の違いによる投資法の違いになるからね。」


よろずのは分かり易く説明した。



投資法を利用するもので分類すれば、


 ①チャートに基づくもの

 ②業績に基づくもの

 ③材料に基づくもの


となる。



この3つの中で、圧倒的に種類が多いのは、材料に基づくものになる。

材料の中には、会社の業績に影響を与える材料と言うもののほか、各社に共通して使える材料と言うものもある。

多くの投資家が研究しているのは、この共通して使える材料となる。



例えば、『東証一部に格上げ』と言う材料を狙う投資法がある。

東証一部に格上げされれば、TOPIXに組み込まれることになる。

TOPIXに組み込まれれば、TOPIX連動債を組成している証券会社は、その銘柄を買わなければならなくなる。

つまり、近い将来に、買い需要が一時的に増大すると言うことだ。

買い需要が増大すれば、必然的に株価は騰がる。

株価が騰がるなら先回り買いして自分が儲けようと言うのが、この投資法のメカニズムだ。



この投資法も、発表された後に買うのでは遅い。

発表される前に、先回り買いする方が、効率が良い。

ただ、何度も言うが、材料を先回って自分だけ知ることはできない。

知ればインサイダーとなる。

だから、みんな材料の出現を予測することになる。

予測するという行為は不安定であり、資金を集中させることはできない。

そうなると、やはり資金効率が悪くなる。

その結果、投資法としては、余り広がらない状況となっている。

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