第53話 弟子、カブトレ!を疑う!?

エキスパートモードは、これまた名前の通り、専門家、達人用、つまり現実に即したゲーム画面、ゲーム進行になっている。

種銭300万円から、半年の間に資産を大きくすることを目指すのだ。

当然、現実に即しているのだから、税金もあれば取引手数料もある。

ただ、取引は、現物だけであり、レバレッジをかけることは出来ない。



実は、発売された当時の日本では、デイトレは出来ないと言われていた。

それは、投資家の能力や技術が不足していた訳では無い。

規則として、難しくなっていたのだ。

ある銘柄を買って、その日のうちに売ることは出来た。

しかし、同じ日に、同じ銘柄を、同じ資金で買い戻すことが出来なかった。



つまりカブトレで言えば、種銭いっぱいの300万円である銘柄を買った。

動きが怪しいので、大事をとって同値で撤退した。

次の瞬間、やっぱり騰がりそうと言う動きを見せたので、買い直そうとした。

この買い直しが規制されていて、当時は出来なかったのだ。

最初の仕込みが100万円なら、残り枠の200万円分なら買い直すことは出来た。

また、違う銘柄なら、300万円分を新たに買うことも出来た。

同じ銘柄を、同じ枠で買い直すと言うことが規制されていたのだ。

これが、デイトレとしては、致命的な規制だった訳だ。

ちょっと逸れてしまった。

話を戻そう。



ゲームが始まった。

銘柄を選べば、チャートや四季報が表示される。

遥香は一通り、それを眺めていた。

すると、あっと言う間に前場が終了した。

と言うのも、現実とカブトレの違いは、現実なら5分の動きが、5秒で進んでくれる。

1時間なら1分。

前場の2時間なら、2分で終了してしまうのだ。

目的も無く眺めていたら、アッと言う間に終わってしまう。

一時停止機能があるので、止めたいところで止められるが、今の遥香はそんな機能があることを知らない。



だから、遥香は何が起こっているのかが分からなかった。

画面に表示されている時間は変わるが、それ以外は何も変わらない。

普通のゲームなら、画面が変わって、見るべきこと、やるべきことが、何となくわかって来る。

しかし、カブトレでは、何も変わらない。

四季報も、チャートも変わらない。

最初にニュースが出たが、それが何を意味しているのかさえ遥香には分からなかった。



どうしたら良いのか見当もつかないまま、ゲーム内の日数だけがどんどん過ぎて行った。

そのうち変化が現れて、分かるようになるのかと思って見続けたが、そんな兆しは全く無かった。



画面が固まってる!?

壊れてる!?

不良品!?

などと、遥香は疑ってしまった。

が、よくよく観察すると、微妙に動いているような感じがして、壊れてなさそうだ。

結局、遥香は、仕切り直すことを選んだ。



気分転換に、遥香は夕食を済まして、ゆっくりと風呂に入った。

湯舟に浸かりながら考えた。

時間だけが過ぎて行くゲーム。

何の変化も無いゲーム。

このままだと、分かる前に嫌になってしまいそうなゲーム・・・。

結局、自分ではどうしようもなくなった時は、誰かを頼るのが一番である。



「結衣ちゃ~ん!!」


遥香は、風呂から上がって、すぐに電話した。


「何よ、その甘えた声は!?」

「そう!?普段通りだよ。」


惚ける遥香。


「ごまかしてもムダよ。どうせ、何か教えてほしいことでもあるんでしょ。」

「正解!」


遥香は笑いながら白状した。


「しょうがないなぁ~。話してみなさい。分かることだったら教えるから。」

「ありがとう。」


こうして、遥香はカブトレの中の疑問点を結衣に尋ねてみた。

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