第13話 弟子、目標の意味を知る

遥香は、『20歳から10年で、100万円を100倍の1億円にする』という目的を設定した。

次は目的を達成するための目標を設定する必要があることを教えなければならない。

文字通り『目的』は『的』であり、達成地点となる。

『目標』は『標』であり、通過地点となる。

つまり、目標は、目的を見失わないための一里塚、目的を達成するために、途中に作る小さい目的ということになる。

でも、このことを理解して使い分けている人は、余り多くない。



「目的と目標って、違うんですか??」


素朴な疑問が遥香の口から出た。


「全然違うよ。ハルは、部活で九州大会に出場したって言ってたけど、部活のみんなの目的は何だったの??」

「全国大会出場を目標にやってたけど、目的って無かった・・・・、と思う。」

「それはハルたちの目的が全国大会出場で、目標が九州大会出場とか、地区予選で金賞取るとか、難しい課題曲を吹き切るとかそういうものだったんだと思うよ。」

「そうなんですか。でも、目的って一度も言われたこと無かったなぁ~。」

「それは、学校の部活って、目的が一律に決まっているからだと思うよ。多分、文部科学省とかが、学校の部活は心身の健康的な発達とか、そういう目的を強制的に設定している。だから、その目的達成のために、やる気を出させるための目標が全国大会出場ってことになってるんだよ。」

「なるほどぉ~。」


よろずのに説明されて、激しく頷く二人。

が、直ぐに結衣は、違和感があったのか、よろずのに更なる説明を求めるように口を開いた。



「でも今の話だと、学校の目的は学生の心身の健康的な発達だけど、当事者のハルたちの目的は、全国大会出場になるのよね。目的が違うのって、おかしくない!?」

「別におかしくないよ。同じことをしていても、人それぞれ目的が違うことは多々ある。だから、途中でトラブルになるんだよ。例えば、今の話で言えば、学校側は体を壊してまでの練習をする必要は無いと言うだろうけど、学生側は倒れるまで練習したいって言うよね、全国大会行きたいから。」

「そうね。」

「でも、全国大会出場と言いながらも、それは夢物語だと思って、そこそこで満足していたら、そういうトラブルは起きないよね。」

「うん。」

「つまり、ギリギリまで研ぎ澄ました世界ではそういう目的の違いが問題になるけど、ある程度のところまでのレベルなら問題にならないし、気にならない。そして、ほとんどの場合は、ある程度のレベルで終わってしまう。だから、今のハルみたいに、目的と目標の違いすら分からない人が増えているんだよ。」

「そうなんだぁ~。あたし、今の今まで知らなかったわ。」


遥香が感心したような口調で言う。

実際、今の社会で、目的と目標の違いを理解して、使い分けをしている人は多くない。

それほど、今の社会はギリギリまで研ぎ澄ます必要は無く、曖昧なままでやっていける。

これが果たして、日本人にとって幸か不幸かと聞かれれば、よろずのは不幸だと答えるだろう。

が、ほとんどの日本人は、幸だと答える。

ギリギリまで研ぎ澄ます必要は無く、余裕をもって生きていけることを幸福だと考えて疑い無いからだ。



「それでだ。今説明した通り、目標は目的を達成するために必要な中途の目的だよ。ほら、良く言うだろ。大きな山を登り続けていたら、途中で目的を忘れてしまうって。他にも、遠い目的を設定すれば、日々の動きが小さ過ぎで、目的達成の意気込みを忘れてしまうって。」

「はい。」

「だから、途中に目標を定めて、目的を忘れないようにするんだよ。ここで大事なのは、目標は多過ぎても、少な過ぎてもダメだってこと。」



少な過ぎる目標は、目的を忘れさせかねない。

そもそも目的を忘れないように、迷わない為に設定するのが目標であるのだから、その効果が期待できないような目標設定は、目標になっていない。

また、多過ぎる目標は、手段を奪いかねない。

目的まで通じる道は多ければ多い方が良いのだが、目標をこまめに設定し過ぎたら、手段という道を選ぶ範囲が狭くなってしまう。

だから目的と今の間に設定する目標は、その数も大事になる。

よろずのは、このことを丁寧に説明した。



遥香は、時折頷きつつ、時折質問をはさみながら、聞いた。


「じゃ、今のあたしは、どれ位目標を設定すればいいんですか??」

「実は、このタイミングで目標を設定するのは、間違いなんだよ。これからオレが色々なことを教える。そして、ハルは教わったことを理解して、どういう方法で自分は『10年で、100万円を100倍の1億円にする』のかを具体的に考える。その選んだ方法に応じる形で、目標は設定する。だから、オレから学ぶことの目的は、『自分に合った投資方法の選択と、目標設定ができるようになる。』ということ。その為に、色々な投資方法や、その方法を使うための基礎となる部分を学ぶ。と言われたら、オレから学ぶ目的に対する目標って、今設定できると思う??」

「思いません。」

「だろ。目標なんてものは、ある程度進まないと設定できないんだよ。だから、目標が設定できるように教えるから、目標設定も意識して学んでね。」

「はい。」


遥香が笑顔で返事するので、よろずのの口調も心なしか穏やかになる。

それを横で見ている結衣は、『男性ってやっぱり若い子に弱いんだ』ということを再確認するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る