第11話 錬金術師、探る
無垢な素人に、初めて投資を教える場合・・・・。
何から教えれば途中で間違わずに正しく導くことができるのかと、よろずのは以前からずっと考えていた。
国語で言えば五十音、算数で言えば和差積商、理科で言えば・・・何だろう??
投資でも、基本中の基本のことから教えた方が、やはり理解は早いと考えていた。
「えっと、遥香ちゃんは、投資に関してはある程度の知識があるんだよね。」
「はい、ヴァフェットの本を読んで勉強しました。」
笑顔でよろずのの問いに答える遥香。
「それなら、投資ってどういうものかは、ある程度理解できている??」
「いえ、そこまでの自信は無いです。」
「そっか。でも、証券会社とか、売買の方法とか、手数料とかのことは知ってるよね。」
「ええ、そういうことなら大丈夫です。」
遥香から、投資の基本云々以前の内容については大丈夫と言われたので、よろずのは安心して基本部分から話すことに決めた。
「じゃ、信用取引は分かる??」
「信用取引ですか?そういう取引があるのは知ってますけど、その取引がどういったものなのかは、分からないです。」
「それなら、遥香ちゃん。」
「あ、あたしを呼ぶのに『ハル』で良いですよ。友達も結衣ちゃんも、みんなそう呼ぶから。」
よろずのから、ちゃん付けで呼ばれるのはくすぐったいようで、遥香は自分から『ハル』と呼んでもらえるように頼んだ。
「じゃ、ハル。」
「はい。」
「オレが君に教えられることは、大儲けできる投資法とか、直ぐに儲かる投資法とかではなく、単に儲け続けられる投資法だけだよ。」
「儲け続けられる投資法ですか!?」
「そうだよ。一生、それこそ永遠に儲け続けることができる投資方法。だから、大儲けは出来ないし、直ぐにも儲からない。大抵の人は、物足りないと感じることが多い。それでもいいか??」
よろずのは、ちょっと意地悪な質問をした。
実際のところ、よろずののやり方で大儲けができない訳ではない。
また、直ぐに儲からない訳でもない。
運が良ければ、直ぐに大儲けすることだってできる。
ただ、よろずのの投資法の狙いは、大儲けや直ぐに儲けることではない。
だから、わざわざそういうことは出来ないと言って、遥香を試したのだ。
「はい。あたしは、大儲けする必要は無いし、直ぐにお金を必要としている訳でもないです。だから、その儲け続けられる投資法で十分満足できます。」
「途中で大儲けしたいとか、直ぐに儲けたいとは思わない!?」
「それは、正直分からないなぁ。まだ全く始めてないから、そういうことを思うかどうかなんて、想像できない。」
「うん、そうだね。でも、ハルも、始めると必ず早く儲けたいとか、大儲けしたいと思うようになる。」
「あたしもですか??」
「そう、ハルも。」
遥香はそういう自分が想像できないらしく、ちょっと驚くように言う。
するとよろずのから、意味ありげな言い方をされた。
勘の良い遥香は、『も』の部分を強調されたことの意味を正確に理解したのだ。
でも、遥香の目から見て、結衣は欲深いということとは対極にいるような人だ。
その結衣でも、そういうことを考えるんだと思うと、自分もそうなるんだと疑われていることを理解した。
「あたしもですか・・・・。」
「別に、そうなることを責めることはしない。一度は誰でも通る道だからね。ただ、そうなったときに、早くそのことに気づいて欲しい。気付かない間は、延々と損失が大きくなり続けるからね。」
「えっ、損失が大きくなり続けているのに気付かないんですか!?」
「そうだよ。ハルが考えている常識が通じない世界だと、最初に教えただろ。普通なら気付きそうなことでも、気付かないのがこの世界だよ。」
「そうなんだ・・・・。」
遥香は、よろずのの言葉を今更ながらに噛みしめながら呟いた。
この態度を見て、よろずのは想像以上にモノになる子かもしれないと思った。
真剣になったときの考えや態度、言葉が軽過ぎず、重過ぎず、丁度よい頃合いで収まっていると思えた。
「間違いに気付けるようにすることも、当然ながら投資の勉強の中に含まれている。だから、大丈夫だよ。」
そう言ってよろずのは、遥香を安心させたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます