第10話 錬金術師、嫌な話をする

「ここでハッキリさせておきたいことがある。」


急によろずのが遥香の目を見て改まって言う。


「はい。なんでしょうか??」

「遥香ちゃんは、物凄く運がいい。それは、オレから直接教えて貰えるから。」

「はぁ・・・。」


- えっ、そういうことを自分で言うか!? -


そう遥香は思った。


- 萬野さんって、実は自己顕示欲が大盛なんだ -


とも思ってしまった。

だから、またまたちょと嫌なヤツという思いがフツフツと湧き出てきた。



「コイツ、何言ってんだって思ったでしょ。」

「えっ!?」


よろずのに今感じたことを見透かされたように言われて、遥香はちょっと驚いた。


「自分で自分のことを凄いと言うヤツなんて信じられないと思うのは当たり前。でも、正直、オレの凄さを肝に銘じてもらわないと、オレの言葉を心の奥で理解しようということができない。それができないと、なかなか成功には辿りつけない。だから、敢えて、オレは凄い、その凄いオレから教わる遥香ちゃんはラッキーだと思い込んで欲しい。」

「あたしは、ラッキー・・・・。でも、そう言われてしまうと、なんかやっぱり宗教みたいで胡散臭い感が溢れてるんだけど。」

「そりゃ、宗教っていうものも古代のリスクマネジメントの一つだからね。リスクマネジメント全般が、宗教臭が漂ってても仕方がない。だから、オレの言葉は投資に関するところだけシッカリ受け止めてくれればいい。そして、普通の生活では今まで通り無関係でいいんだよ。」

「そっか。」


ちょっとだけ遥香は納得した。



「それと次。オレから教わると言うことは、オレに弟子入りすることになる。本来、弟子入りする時は、束脩そくしゅうというものを師匠に持参しなければならない。束脩そくしゅうって言うのは、プレゼントみたいなもので授業料の前払いだね。」

「はぁ・・・。」


次にお金の話が出てきたので、やっぱり嫌なヤツと思うところだが、多分別に理由があるんだろうなと思い、遥香は苦笑いで返した。


「だからって、遥香ちゃんから束脩そくしゅうを取ろうとは思わない。ただ、遥香ちゃんが成功して資産が大きくなってから、もうこれ以上の資産は要らないと思ったら、その要らない部分を、その時にオレがやっている事業に投資してほしい。」

「そう思うようにならなかったらどうするんですか??」

「その時は投資して貰わなくて良いよ。あくまで、もうこれ以上は要らないと思えるようになったてからのこと。」

「分かりました。それなら約束します。」

「じゃ、弟子入りってことで良いよね。」

「はい。」

「ちょっと待って!!」

「どうしたんですか、課長!?」


またまた結衣が急に割り込んできた。


「あたしも弟子入りしたい。」

「えっ、結衣ちゃん、弟子じゃないの!?」

「違うよ、課長なんか弟子にしないよ。」


てっきり結衣は兄弟子だと思っていた遥香は、探るようによろずのの顔を見た。



「そうなの、いじめられてるの。」

「そうなんだ・・・。」


故意に同情をひこうとする結衣に納得した遥香。

そこで急いでよろずのが反論した。


「何言ってるんですか!?林野にも言ったけど、どうして年上を弟子にしないといけないんですか!!」

「見た目年齢が年下ということで・・・・。」

「却下!!」

「骨年齢が年下ということで・・・・。」

「却下!!」

「精神年齢が年下ということで・・・・。」

「却下!!」


思い当たった適当な理由全てを却下された結衣は、ちょっとキレ気味によろずのに食らいついた。


「じゃ、ハルの保護者として、可愛い姪っ子を、独り身の男には預けられない。」

「あのですね、嫌がってるオレに、無理やり教えさせようとしたのは、誰ですか!?」

「そうだっけ!?」

「そうです。」


よろずのから正論で返されて、結衣は何も言えなくなった。


「そこを何とかお願い!!あたし、本気で勉強したいの!!ハルの隣で邪魔にならないように聞いてるだけだから。」


両手を顔の前で合わせて、よろずのを拝み倒す結衣。

暫くして、またまたよろずのが折れた。


「もう、仕方ないなぁ~。邪魔したらつまみ出しますよ。」

「うん、しない。絶対しない。」

「分かりました。許可します。」

「ありがとう。」


こうして結衣は、何とか林野すらなれなかったよろずのの弟子の地位を獲得したのだった。

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