第2話口数の少ない灯莉

私は、灯莉と並んで廊下を歩いていた。

正面から一人の女子が歩いてきて、私達に気付いた。

「あれっ、芽愛ちゃんじゃん......珍しい組み合わせだね。いつから仲いいの、芽愛ちゃん達は」

「今年からだよ。侑菜ゆなが思ってるようなのじゃないから。柚希達に広めないでね」

「口止めしようってことは、そうなんじゃ──」

「違うよ。お願い、侑菜」

「そんな睨み付けなくても......言わないよ。これからも仲良くしたいから、芽愛ちゃんとは。今度、何かおごってよ。またね」

彼女は、通りすぎていく。

「またね、侑菜。メールしてね」

私達は、再び歩きだし、灯莉が謝ってきた。

「ごめん、芽愛。私のせいで......」

「謝るようなことじゃないよ。侑菜はあれでも、約束を守ってくれる方だから」

「ありがとう」

「私の家に来るんでしょ。早く帰ろ」

「うん」

私達は、廊下を駆け出す。


自室に入ると、こもっていた熱気が私達の身体に纏わりついた。

「蒸し暑~」

「蒸し暑いけど、芽愛の部屋は安心する」

私は、しめきった窓を開け、換気をしてから再び窓を閉めて、エアコンの電源を入れて室内を冷やした。

「上、脱いでもいい?」

彼女が遠慮がちに聞いてきた。

「いいよ」

彼女は、ブラウスのボタンを外していき、上半身は、ブラをつけだけになる。

本当に肌が白くて羨ましい、日本人形のような綺麗でさらさらした黒髪で、魅力的でしかない。

折り畳み式の小さなテーブルの前に座って、一点を見つめ続ける彼女。

エアコンの稼働音が室内に響くなか、私達は、無言のまま10分が経過した。

「灯莉、どうしたの?」

沈黙に耐えきれず、彼女に訊ねた。

いつもであれば、積極的に話題を振ってくるのに対して、今は話しかけようともしない。

「えっ、ううん。考え事してたの......この前の漫画の続きってある?」

本棚に近付き、探すが見当たらない。

「あれっ無いな。ここにあったような......勝手に持ってかれた。ごめん、今度でいい?」

「うん、今度で。さっきの娘といた方が楽しい、芽愛?」

「灯莉といるときが楽しいよ、一番。侑菜が話しかけてくるだけだよ。そう見える、灯莉には?」

「......」

「灯莉だけだよ、家に招いてるのは。信じられない?」

「そうじゃ......ないけど......」

俯いたまま、曖昧にこたえる彼女。

「いつものゲームしよっか?」

ベッドから立ち上がり、テレビの前に座り、隣に座るよう促した。

「......うん」

私は、彼女にコントローラーを渡して、テレビの画面にゲームのタイトルが映し出されるのを待つ。

「始まるよ、灯莉」

彼女の背中を軽く押した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る