公開処刑をされた時
みお
第1話
公開処刑。これは、人間にとって、一番、厭わしいことではないだろうか。
もし、自分の仲間や友達、同僚が目上の人から理不尽な公開処刑をされていたら、あなたはそれに反論することができますか?
それとも、目上の人には逆らえないから黙ってみていますか?
ある日の職場での出来事。
わたし、桐宮は、いつも通り職場で、パソコンをいじっていた。早く仕事終わらないかな。早く帰りたいな。
そんなことを思いながら定時になるのを待っていた。
「金子さんは、今日も猫カフェに行くんですか?」
「はい。猫と戯れてきます。これ見てください! かわいいでしょ」
目がくりくりとした、白猫が写真の中にいた。正直言って、とてもかわいかった。
ほんと、金子さんには癒されるなぁ。
金子さんというのは、ベテランの50代男性の社員で、来年退職となる人である。
穏やかな性格からみんなから好かれている優しい男性。
猫が大好きで毎週猫カフェに通っているほどだ。
「では、みなさんお揃いでしょうか? 終会を始めます」
週に3回ほど終会は行われる。10分程度の連絡事項を伝えるだけのものだ。
いつものように、連絡事項がつらつらと話された後、社長の話になった。
副社長が1枚の紙を社員50人くらいに配った。
そこには、「基礎基本」と題名が綴られ、文頭には、「金子さんのプレゼンより」と書かれていた。
金子さんの名前が終会で配られた一枚の紙に載るなんて、何事だろうと注意深くその紙を見た。
社長が言う。
「先日、金子さんの他社に対するプレゼンを見せてもらった。
そのプレゼンについて、金子さんには指導したが、それに加筆したものがみんなに渡したものだ。
プレゼンの基礎基本について、俺が書いておいた。
みんなももう一度立ち返ってプレゼンの基本を見直してほしい。
俺は、金子さんのプレゼンを見て、正直言うと怒りを覚えた。
仕事をなめないでほしい」
シーンとした重たい空気が職場に流れた。
金子さんの顔を見ようと思ったが、私には顔をあげることができなかった。
金子さんのプレゼンの出来は、あまりよくなかったのかもしれない。
でも、それを金子さん個人の指導に収まらず、社員全員に周知する必要あるのか。
基礎基本のことは、みんなに伝える必要があるだろう。
それを金子さんのプレゼンの出来が悪いということも一緒に伝えなくてよくないか?
伝えるなら、基礎基本のことだけで良かったのでは?
モヤモヤとした感情が次々に表れる。
「そして、桐宮さんのプレゼン案を今日見たが、提出するのが遅すぎる。
中身についてだが、言いたいことは山ほどある。
プレゼンをめんどくさいと思わずに、一生懸命リサーチして、プレゼンに挑んでほしい。以上」
「では、終会を終わります。1週間お疲れ様でした」
私のことを言われている……一瞬で体が氷のように凍りつき、息をするのも苦しくなった。
呼吸をあえてゆっくりし、動じていないフリをし、平常を装う。
時計を見ると定時になっていたので、すぐに荷物をまとめて帰り支度をした。
「おつかれさまでした。お先に失礼します」
いつものように、挨拶をし、職場を出る。
ふと空を見ると満月がとても綺麗だった。今日は中秋の名月だっけか。
なぜか月を見て抑えていたものが一気にはじけ、涙が溢れた。
私に力量がないのは自分でも分かってる。
でも、それを社員全員の前で言われて、公開処刑された。
みんなから、「ダメなやつ」という烙印を押された気分だった。
提出に関しては、一言言いたいことがある。
検討会をしたその日のうちに社長に出した。
だから、それを遅いと言われたら、検討会をもっと早くにやれという話で、それを私に説教するのはおかしくないか?
プレゼンをめんどくさいから適当にやろうなんて思ったことない。むしろ、良いプレゼンになるように勉強して研修して一生懸命作ったつもりだった。
それに関して指導させるのは、ありがたいが、みんなの前で言わなくても……
職場のみんなの目が蔑むように見ている気がしてとても怖くなった。
社長のことは、もう信頼できなくなり、恐怖を感じた。
所詮、同僚は仕事をするだけのための集まり。
不都合があることは、しないし、行動しない。
例え、理不尽だと思っていても、それが自分に関係ないことだと関わろうとしない。
その標的が同僚だとしても。
辛かった。悲しかった。職場に行きたくなくなった。
生きてるの、辛い。
こんなとき、みなさんはどうしますか?
公開処刑をされた時 みお @mioyukawada
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