第3話 感情の記憶

 感情は放棄した。それがあれば私たちは”現実”と言う名の”地獄”を受け入れなければいけなくなる。それは永遠にも思える終わらぬ一日が始まる事になる。今この瞬間にも。


 ここにいる女性たちは“愚者”を慰めるため使われる。道具として扱われ蹂躙されながら役をなす。女たちは何も発さず、何も感じず、ただ黙って受け入れる。

 呪った世の全てを受け入れる。


 感情が失せる前にとある少女がいた。笑顔が似合う優しい少女だった。えくぼが可愛いその少女と私は仲良しだった。

 あくる日の朝、牢(へや)に戻った彼女は嬉しそうに語った。殴られ蹴られる事無く優しくされたのだそうだ。きっと“愛情”が互いの間に芽生えたのだと喜ぶ彼女につられ、私も嬉しくなった。


 その日の夜、彼女はいなくなった。

 代わりに呼ばれた私は彼女が弄ばれて屠られた事を知った。私の顔を踏みにじりながら自らを“人”と呼ぶ”愚者”は笑みを歪めていた。


 次の日、全部捨てた。残っていたなけなしの感情を全て。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る