第2話 名も無い住処

 明かり窓すら無い牢獄は月にも見放されている。ここが私の住処。

 汚れた体からは酷い腐臭がする。そこに忍ばせるように死臭が混じる。ああ、人知れず誰かが死んでいるのだろう。ろくに換気口もない地下牢は湿っぽいはずなのに、こびり付いた”人”の臭いにカビの匂いすら感じとれない。


 床には骸の様に敷き詰められた牢の住人たちが横たわる。その中に一体いくつの本物の骸があるだろう。耳をすませば聞こえてくる声は呻き声と嘆き声。


 まともな者はいない。頭も心も病んでいる。壊れていない者はいない。顔も体も病んでいる。みな傷だらけで血だらけ。


 ここは”愚か者たち”が造った簡素な地獄。


 乾いた金属音が響いて近づいてくる。痛めつけるためだけに生まれてきた鉄の棒きれで、牢の格子がなぞられている。暗闇にも関わらず地揺れの様に床が震えているのが分かる。歯がカタカタと繊細な音を奏ではじめる。嗚咽も合いの手を入れる。


 この中から今日は誰が“死神”に魅入られるのだろう。

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