待ち人

玉手箱つづら

待ち人

 朝、占いと小クイズを見るためにしていた十五分の早起きがいつの間にか無くなって、そのくせ、夜の楽しみかたも分からなくなったものだから、就寝時間はずるずると早まって。積んだ文庫本、録画したテレビ、ユーチューブ、ゲーム、どれもこれも、私はこれを無理に楽しんでいたんじゃないだろうかと思うような感覚で、心に嵌まらなくなってしまった。 ベッドの中で、漫然とスマホの明かりに目を晒してみても、退屈に、光に慣れていくばかりで空々しい。

「うん、ごめん、明日も仕事なの」

 誰かに答えるように言うものの、私は誰とも話していない。眠たくなってくるとやってしまうクセで、ぼんやりとした、私と誰かとの会話のイメージが頭の中に沸いて、あまり深く考えずに、私は「私側」を演じてしまうのだ。

「だったら替わりましょうか? 私は別に構わないですけど」

 本当は構わなくなんてなくて、だから、これは虚勢だ。服に体温がこもって、暑いうえに湿気ている。一枚脱いでしまおうか、と思うけれど、そこまで動いたらきっと頭が覚醒してしまうという予感がして、硬直する。わからない。わからないけれど、このまどろみこそは、唯一、惜しむべきものである気がした。

「痛っ……た」

 言いながら、無痛の腕を伸ばしかけて、やめる。殺し屋がいればいいのにと思う。ドアのところに、ふと見たら、立っていてほしい。あまり賢くない奴で、包丁を持っていて、枕を顔に押し付けて私を窒息死させる、怪物。無口で、私よりも憐れな……

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待ち人 玉手箱つづら @tamatebako_tsudura

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