第6話 新たな可能性
准教授は、科学者らしく理論的に
「その推論だと、もし魂だったら
遺伝子には現れない事になるね。」と。
詩織は、ああ、そうかと思う。
ひとりで考えていると、そういう視点には気づかない。
微笑んで「はい。もし....。」と、珠子がいるので言葉を抑えた。
若いまま、変わらない細胞だったとしたら。
なぜ16歳までは加齢したのだろう。
なぜ、ここからは加齢しないのだろう。
....と、思ったけれど
友達の目の前でそれを言うのは酷だ。
それが分かったら、珠子は
どこかに失踪してしまうかもしれない。
或いは、珠子の母、祖母、曾祖母が
そうだったとすれば。
穏やかに微笑み「そうですね。そこまで考えていません」と
笑った。
准教授もなんとなく気づき「ああ、そっか、ははは。
魂だったら解析しても分からないね」と言って。
「お母さんか、おばあちゃんの細胞があればネ。同じ人かどうかは
はっきりするけど。」と、
珠子の祖母が、若い頃に旅に出て。
若いままの容姿だから、あちこちで愛されて。
生まれた子が、珠子の母だったら。
その可能性もあるわね、と
詩織は思った。
・・・もし、そうだとすると。
珠子の母が同じ行動をすれば、いつか
珠乃家に、その子が現れるかもしれない。
新しい推測が、詩織に生まれた。
何れ、遺伝子解析で分かる事だろう。
でも、記憶はどうなるのだろう。
詩織は考える。
身体が加齢しなくても、過ごした時間に比例する。
脳細胞は増えないから、加齢せずに死滅する。
データ、つまり記憶だけがコピーされる。
そのプロセスが夢であるとされ、実際に
深層記憶に触れるため、医師が患者に麻酔を投与した上で
それに触れるという治療法が存在する事からもそれと判る、が。
つまり、体が加齢しなくても、記憶は蓄積されていくのだ。
研究室を後にして、エレベータで一階へ降りるふたり。
「すぐにわかるみたいね」と、珠子。
「うん。判ったとして、どうするの?」と、詩織。
珠子は、少し考える。
詩織は「ごめん、変なこと言って」と。
珠子はかぶりを振り「ううん、考えないといけないことだったもの。
私が16歳から年を取れないとしたら、治療する方法ってあるの?」と。
詩織は少し考え「それは、わからないけど。科学的には有り得ないと思う。
そういう事は。
あるとすると、細胞が新しく生まれ変わるのね。16歳の状態で。」
詩織は連想する。
飼育しているミズクラゲは、寿命が来ると
元居た場所に戻り、幼生、つまり
赤ちゃんに生まれ変わる。
新しい細胞の遺伝子が、古い細胞を利用するのだ。
そんな風に、生き続けることは
遺伝子が損傷しなければ可能であるが
そんな事が可能なのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます