【加筆・修正版】隣のツンデレに『可愛い』と言ったらラブコメが始まったんだが。

藤松 燈裡

第1話 お隣さんはツンデレさん

「ここのページを……平良たいら、読んでくれ」


「はい」


 現国の授業中、俺は教科書の音読に指名された。


 印刷された文字を淡々たんたんと読み、終わったら座る。一般高校生、平良たいら 尋斗ひろとの代わり映えしない日常だ。



 だが、世の中には周囲の人間から注目されるのが日常というヤツもいる。


「それじゃ次の文を、隣の席の咲良さくら


「はい」


 俺の隣に座る女子……咲良さくら 望美のぞみが返事をして起立する。


 俺と全く同じ行動。なのに、なぜこんなにクラスの男子がざわつくのだろうか。


 その答えは簡単で単純。彼女が美少女そのものだからだ。


 整った顔。凛とした雰囲気。肩にかかっている蜂蜜色の髪はツヤツヤと輝いていて、入念に手入れをしていることがわかる。


 恐らく、誰が見ても可愛いとか綺麗とか、そんなことを思う容姿をしている。それに……胸も結構ある……。


 まあ、そんなこんなで咲良望美は男子の憧れの的なのだ。


 しかーし、人というのはトータルで見るとあまり差はないようにできている。個人の考えではあるが、人間というのは良いところと悪いところが混ざり合って成り立っていると俺は思っている。


 極端な例えだと『ゲームは得意だけどスポーツは苦手』とか『勉強が得意だけど料理は苦手』とか。


 では男子の理想そのものと言える容姿をした咲良望美の悪いところとは何だろう……と考えた時、間違いなく欠点だと言い切れる部分がある。


 それは『重度のツンデレ』だ!


 その言葉の通り、彼女は性格がかなりキツめなのだ。


 男子に話しかけられると、どこかの雪の女王もビックリの鋭い対応をするし、女子に話しかけられても『伝説のポ○モンですか?』と言いたくなるような威圧感を放っている。



 もちろん、そんな咲良を『ゲットだぜ!』しようとする男子も少なくないのだが、ことごとくぎ払われるらしい。


 それをご褒美と喜ぶ変態もいれば、「お高くとまって」と、よく思わないやつもいる。


 それで人間としての均衡を保っているのだから、仕方ないと言えば仕方のないことだ。



 そんなことを考えて上の空だった4限目が終わり、俺たちは昼食ののんびりムードに突入する。


 今日はいつも昼飯を一緒にしている奴らが部活のミーティングでいない。久しぶりのボッチ飯だ。


 俺はコンビニで買ったコーヒー牛乳を飲みつつ、メロンパンとサンドイッチ、どちらを先に食べるか迷っていた。


「メロンパンを先に食べようか……いや、デザート感覚で後からにしても楽しみが残るな……どうすればいいんだ」


 あぁ、なんて幸せなひと時なんだ。こんなどうでもいいことで悩める俺は幸せものだっ!


「君、ちょっと」


「ん?」


 どこからか声がする。左は窓だし、右にはツンデレ美少女。前後にはグループになって弁当を食べる生徒達。この状況で俺に話しかけてくるやつは……いないな。空耳か。


 さてさて、メロンパンとサンドイッチについての脳内会議を続けようか。コーヒー牛乳に合うのかはどちらかと考えた時……


「だから、ちょっとってば!」


「あぁ?」


 周りには聞こえない大きさだが、かなり威圧的な声。そして、その声がかかると共に俺の右肩がつつかれる。


「さっきから声かけてんのに、なんで気付かないのよ。使えないわねぇ」


 うわ、なんだこいつ。美少女の皮をかぶった悪魔か。


 声をかけてきていたのは例のツンデレ美少女だった。見た感じ、どうもご機嫌斜めらしい。


「なんだよ。話があるなら早く終わらせろ。パンが俺を待っている」


『俺の手元にはパンが二つ。つまりパンツ』と言いたい衝動を抑えて、俺はあしらうように反応した。早く解放してくれ……俺の理性が壊れないうちに……!


「その……今日時間がなくて、お昼ご飯を買えなかったの……。だから、その……少し……わけてちょうだい……」


 最後がかすれて聞き取りずらかったが、昼飯をわけろと言う話だろう。


「購買で買ってくればいいじゃないか。まだ残ってるだろ?」


「それは、無理。あんな人が多いところに一人で行ったら、変に思われる……」


 普段から一人で休み時間を過ごしている事は変に思わないのに、購買に一人で行くのは変だと……やっぱコイツはわからんなぁ。


「なんだそれ。お前そんなことに見栄張ってんのか?」


「だ、だって……私こんなんだから友達もいないし……作ろうとしても……上手く、いかないし……」


 なんだよ、意外と可愛らしいとこもあるんじゃねえか。


「なんかお前、可愛いな」


「はぁっ?! いきなりなに言うのよ!」


 あ、ツンデレだ。ツンツンデレデレしてる。


「悪い悪い、ちょっと思っただけだ。ほれ、二つともやるからこれで我慢しろ」


 俺は咲良のデレに免じて、パンを二つとも譲ることにした。じゃあな、二つのパン通称パンツ。


「もう、なんなのよ。でも、あんた食べるものなくならない?」


「俺は購買で買ってくる。あいにく、お前と違って変なプライドないんでな」


 俺は皮肉を交じりに答え、咲良の両手にパンツ(二つのパン通称パンツだよ? 他意はないよ?)を渡した。


「そんじゃ、俺は行ってくるんで」


「ありがとう……」


「はいはい」


 これはあれだな、普段は飼い主にそっぽ向くネコがたまに甘えてくる時の感じだ。


 そう……可愛い! ネコみたいで!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る