第29話 ミュノラム王国



僕達はこれからミュノラム王国に向かう。



今までの旅とは違い、クラさんが乗せてってくれるから楽だ。


といっても…おそらく乗れるのはアーリジャ大陸だけだろう…。


ドュラザ大陸でクラさんに乗るには…相当上空を飛ばないといけないし、程いい森がどこにあるかもわからない。


下手したら黒龍が出て大騒ぎ…なんて可能性も。



―――――バサッ――――


クラさんが飛び始めた。


「うおっ…」


クラさんが初めてドラゴンに乗り、思わず声が出てしまったみたいだ。



「どんどん大神殿が小さく…まさか今世で空を飛べるなんて…」


カリンが離れて行く大神殿を見ながら呟く。



「今回も急ぐか?」


「いや…ゆっくり行こう。前回はクラさんにかなり負担かけてしまったし…」


クラさんの問いに僕は答えた。


「ふん…わかった。まさかまたお前を乗せることになるとはな…」


クラさんが落ち込み気味に言う。



――――8日かけて僕達はミュノラム王国に着いた。


ミュノラム王国の王都から2.3日程歩いた距離に程いい森があった。


僕達はその森から王都へ向かうことにした。



――――――――――――――――――――――


☆ミュノラム王国



ユーリちゃんとクラさんは森を、僕・カリン・ヘルディは王都でザーグトさんを探す事にした。


冒険者だから森にいる可能性も高いし、Aランク冒険者なんて中々いない。

顔が分からなくても探す事はできるだろう。




僕達は歩き、王都に到着した。


そして…ザーグトさんを降ろした近くにある冒険者ギルドに入った。



――――ザワッ――――


ギルドに入った僕達を見て、中にいた冒険者達が騒つく。


……こんな反応は初めてだ。

僕達の姿を見て馬鹿にするのはいるけど、騒つき恐ろしいものを見るような目を向けられるのは初めてだ。



……なんでだ?


……あっ!

ヘルディか?


ガラム帝国のSランク冒険者…隣の国だし、噂どころか姿を知っている人が多いのも不思議ではない。



謎が解けた!


僕達は受付に向かう。


「すみません。人を探しているのですが…」


「はっはい!!!しょ…少々お待ちください!!!」


僕に話しかけられた受付のお姉さんは、慌てて奥の部屋に向かってしまった。



いや…お姉さんに聞きたかったんだけど…。


「ヘルディ効果すごいな…」

僕は思わず呟いた。


「ん?なんか言ったか?」

ヘルディが聞き取れなかったようで、不思議そうに僕に聞いてくる。


「いや、何も」


「そうか…」


僕達がこんなやり取りをしていると、奥からガタイのいいおじさんが慌てて出てきた。


「すみませんお待たせしました!!どうぞこちらへ!」


僕達は応接室に案内された。


……またかよ。


どこのギルド行っても応接室に案内される…。

受付でいいんだけど…


僕達はソファに腰掛けた。


ガタイのいいおじさんは、何故か座らず立ったままだ。


僕達を見て、一礼し話し始めた。


「お初にお目にかかります。王都ギルド、副マスターのジョルと申します」


深々と頭を下げ、話を続けた。


「ガラム帝国ジャーロヘガル州ギルドマスター、ベルビア様より数々のご活躍を――――」


「ベルビアさんが?」


ヘルディがジョルさんの話を遮り、言葉を発した。


「はい。Sランク冒険者様2名と聖女様と思われる方がミュノラム王国に来るかもしれない…と。その際、当ギルドも協力するようにと」



ギルドは各国毎にギルド統括が存在する。

基本的にギルド運営は各国毎に行う。


素材の買取価格や、Bランク以下のモンスター討伐報酬が国のギルド毎に価格が違うのもそのためだ。


だが、各国それぞれでは決められない事も存在する。


Sランク冒険者に認定するための基準やらを作っている【世界ギルド連合】というのが存在する。


基本的には各国のギルド総括が代表となり話し合いに参加する。



だから他国のギルドでも、ギルド同士で連絡手段はあるし連携もしている。

もちろん今回のように情報共有も。



「そうですか。それでは早速ご協力いただきたいのですが…」

僕はジョルさんに言う。


「はい」


「実は僕達、Aランク冒険者のザーグトさんに会いに来たのですが、今どこにいるか教えていただきたくて」


「あ〜、ザーグトでしたら今、依頼を受けて森にいるはずです。3日前に出発したので…あと1週間以内にはこちらに戻ってくるかと」


やはり討伐に向かっていたか。


3日前…僕達がちょうど森に着いた時だ。


「その森って南の森?」

カリンがジョルさんに聞く。


「はい。そうです!」


僕達がいた森じゃないか!!!



道中すれ違わなかったが…


ってことはユーリちゃんとクラさんがザーグトさんを見つけているかもしれない。


「森に行ってみるか?」

ヘルディが僕と同じ考えだったようで提案する。


「そうですね。ユーリちゃん達がいるし、戻りましょう。情報いただき、ありがとうございました」


僕達はジョルさんに礼を言い、一礼して立ち上がった。


――――――バンッ―――――


「失礼します!!!」


勢いよくドアが開き、男性が息を切らしながら入ってきた。


「何やってんだ!!!今来客中だ!!大事なお客様の前で―――――」


ジョルさんが激怒し始めたので、僕達が落ち着かせる。


「それだけ急ぎの用があったんですよね?何があったんですか?もし良ければ、僕達にも聞かせていただけると」


僕が男性の方を見ながら言う。


男性は無関係の僕達に言っていいのか、悩むようにオロオロしていると―――


「この方々なら問題ない。話せ」


ジョルさんが低い声で男性に指示した。


「はい!【ミュラザの森】にて黒龍が出現!!その場に居合わせたザーグト様一行が交戦し敗れました!! ザーグト様に庇われ、逃げ切ったDランク冒険者からの報告です!!至急討伐隊を編成し―――――」


「あの〜……すみません…」

僕は恐る恐る手を挙げ言った。


「【ミュラザの森】って南の森のことですよね?すみません…それ僕達の仲間です…」


「「え……」」

その言葉を聞いたジョルさんと男性が驚く。


ジョルさんは男性からの報告を聞き、顔面蒼白になっていたが、黒龍が僕達の仲間だと知って少し安堵していた。


「王都に姿を現したら騒ぎになるので…森で待機してもらっていました」


「………なっ…なるほど。そういうことでしたか」


ジョルさんが動揺しながら汗を拭う。


「僕、先に戻って様子を見てきます」


僕はそう言ってギルドを後にした。



――――――――――――――――――――


☆ミュノラム王国【ミュラザの森】


僕は《身体強化・風煙》を使い、1日半かけてクラさん達のところに戻った。



「コーキお兄ちゃん!戻ったのね!ザーグトさんってこの人?」


ユーリちゃんが指を指す方向に目を向けると…


怪我こそ無いものの、手足を縛られたザーグトさんとそのパーティーの仲間がいた。


「お兄さん!お久しぶりです!」

僕はザーグトさんに近づき、縛られた手足を解いた。


「コーキか!こいつらは…お前の仲間か?」


「はい」


「そうか…。負けた俺たちを殺すどころか回復薬を使うから不思議に思っていたんだ…」


ザーグトは俯いた。


「クラさん、お兄さんと戦ったんだよね?どうだった?」


僕はザーグトさん達が逃げないように目を光らせていたクラさんに聞いた。


「ああ…お前、あれは全力だったのか?」

クラさんがザーグトさんに問いかける。


「もちろん全力だった…。一切手を抜いてないし、そんな余裕もない」


「ふん。なら…こいつは違うだろうな」


「そっか…」


クラさんは僕やヘルディレベルの強さなら匂いでわかると言っていた。


そのクラさんが違うと言っているのだ。


本当に力を隠していないのなら…ルージア神の使徒では無いのだろう。



そうなると…ヘルディには申し訳ないが…ベルビアさんも疑わなければならなくなるな…。



――――僕達はカリンとヘルディが戻るまで、ここで野宿をした。


クラさんとザーグトさんはなぜか打ち解けている。

僕より仲良くなってるし…。


ザーグトさんのパーティーメンバーは、まだクラさんが怖いのか近づかない。


ユーリちゃんが【災厄の魔王】だと知ったザーグトさんの驚いた顔は面白かった。


―――ザーグトさんがルージア神の使徒では無さそうでよかった!

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