逆転生物語

kocheldy2594

第1話

「瀬奈っ!」

俺は必死に相方の名前を呼ぶ。

「、、、凛斗っ!」

瀬奈にその声が届いたかどうかは分からないが、助けを求めるように俺の名前を口にする。

俺は、瀬奈を今にも握りつぶそうとしている禍々しい色のドラゴンを睨みつけ、瀬奈を救うべく攻撃魔法を放とうとする。しかし、ドラゴンは、そんな余裕も与えてくれず、俺目掛けて火を吹いてくる。俺は咄嗟に横に跳ぶも、その火が、俺の右足を掠めており、俺の右足は、跡形もなく消え失せていた。アドレナリンが出ているからだろうか、あまり痛みは感じない。だが、右足がなければ、まともに戦えないため、すぐに治癒魔法をかける。しかし、そこへ、俺に大きい衝撃が与えられる。

「うぐっっっ、、、!、、、瀬、奈、、」

痛みに耐えながら、俺は必死に相方の名前を呼ぶ。

「、、、、、、、、、」

たが反応はない。全身に軽く治癒魔法をかける。そして、ドラゴンの方を見たが、その手に瀬奈は、握られていなかった。俺はまさかと思い、反対側を向く。

「っ!」

声にならない声が出る。そこには、瀬奈が転がっていた。いや、もう瀬奈と呼べるかも分からない。ドラゴンに投げつけられ、そこにいた瀬奈の顔色は、肌色と呼べるものでは無い、片方の目がなく、歯も何本か抜けている。左腕と右脚がなくなっていて、右手の指は、曲がるはずの無い方向にまがっていて、左脚は肉が抉られ、骨がむき出しになっている。服が破けて、隙間から肌を覗かせているが、その肌は、所々が肉ごと抉られている。近くで確かめる必要も無い。即死だ。すぐにドラゴンへ向き直り魔法を放とうとするが、顔を爪で抉られてしまう。10年後には、顔に傷を負った大賢者のような顔になっているだろう。そんなことを考えている間にもドラゴンの攻撃は続く。もう意識を失いかけている。もう魔力も尽きている。凛斗は死を悟った。凛斗は走馬灯を見ていた。父、母、妹の瀬奈、祖父、祖母、友達、彼女、先生、自分の過ごした日々を振り返った。

「後悔は、、、ない、、、かな?」

そんなことはないだろう。むしろ後悔ばかりだったかもしれない。そもそもまだ22歳だ。やりたいことはまだまだある。結婚したい。もっと友達と遊びたい。親孝行もしたい。長生きしたい。それらが叶わないことをだんだんと実感していきながら、抵抗するすべもなく意識が闇に飲まれていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る