5月5日Ⅹ(9)

「架那さん! あれなんてどうでしょう」

愛奈さんが指さしたのは、浜名湖を自由に回れる二人乗りのカヤックだった。

「良いね、あれ乗ってみよ!」

「はい!」

私たちは頷くと、チケット売り場まで歩いていった。


「大人2名で」

愛奈さんがスタイリッシュにブラックカードを提示して、チケットを二枚買う。

かっこいいっす姐さん。

「ではこちらへどうぞ」

奥にいたスタッフの男性に呼ばれ、私たちはチケットを手に歩き出した。


「では楽しんでいってらっしゃいませ」

スタッフの人にチケットを手渡すと、すぐカヤックに乗せられた。

「「行ってきます」」

手を振ってくるスタッフの人に手を振り返しながら、私たちはゆっくりとカヤックのオールを漕ぎ始めた。


「風が涼しくて気持ち良いですね」

浜名湖のちょうど中央あたりで一度止まると、風であおられる髪を抑えながらポツリと呟く。

「ほんと、自分が何者なのかとかどうでもよくなってくる感じするよねー」

「そうですねー」

二人してカヤックで背中を倒すと、澄み切った空を見上げる。


「空綺麗だね」

「はい」

私たちは暫くそのままで、静かにカヤックの上で空を見上げていた。

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