5月5日Ⅷψ(18)

暗殺者は、汀の身体に貫いたダガーを2本抜き取ると、わたしには目もくれず、廊下を後にしました。

抗議集団は、突然の出来事に戸惑ったのか一斉に立ち止まりました。

「申し訳、っがはぁっ、ございません…」

吐血しながら汀が私に謝罪の言葉を述べる。

「無理しないでください、無理に喋らずとも想いは伝わりますから!」

私は、床に倒れ寝た汀の身体に寄り添いました。

「貴方達の目的はもう達したでしょう!?早くどきなさい!」

苛立ちを抗議集団にぶつけると、彼らは蜘蛛の子を散らすようにこの場を去っていきました。

「愛奈、様。美しいお顔が、汚れて、しまいます。泣くのは、成功した後で、ですよ?」

汀は、私の双眼から流れ出る涙を、左手の小指で拭き取ってくれました。

「後は、任せましたよ、愛奈様。神坂と一緒に、ぐぁあっ」

どこかの臓器に折れた骨が刺さったのか、汀は大量の血を吐き出す。

「神坂と一緒に、この世界を、やり直してくだ、さい」

汀は途切れ途切れながら痛みを堪えながら私に言葉を紡いでいきました。

「はいっ」

返事は涙のせいで上手くできませんでした。

「不甲斐ない部下で申し訳、ありませんで---」

「汀!汀っ!」

汀は、言葉を最後唇から紡ぎ出す前に、あの世へ飛び立っていってしまいました。

魂の拠り所を失った彼女の腕は、脱力し、私の膝の上にぽすんと落ちてきます。


「泣くのは、成功した後で、ですよね」

私は、立ち上がりたく無いと言う膝を無理やり起こし、ふらついた足取りで廊下の端へ落ちている携帯を取りに向かいました。

詩歌さんに伝えなければいけません。

この事実を、惨状を。

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