5月5日Ⅶθ(26)

三和さんは私のことを考えて言ってくれているのだろう。

こんな身勝手な私のことを考えて。

「架那ちゃんのいない世界なんて、生きる意味がないんだよ」

三和さんは私の返答を聞いて笑った。

「本当に架那さんのことが大好きなんですね、詩歌さんは」

「知らなかった?」

「知ってましたよ」

三和さんは涙を流しながらくすくすと笑う。

「でしたら私にもう止める手立てはありません。お好きになさってください」

「ありがと。戻ったら向こうでちゃんと謝るから」

「はい、約束ですよ?」

突き出された小指に、私の小指を重ねる。

「じゃあ、行ってくる」

「無事を祈っています」

私は三和さんに微笑むと、勢いよく甲板へと続く階段を駆け上がった。

待ってて、架那ちゃん!

出発前師範から手渡されたハンドガンを腰のベルトから抜き取る。

甲板から漆黒の海へと勢いよく飛び出すと、着水する刹那、銃口を頭に突きつけて撃鉄を起こした。

その瞬間、私の意識は夜の海へと溶け出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る