5月5日Ⅶθ(24)

いない。

どこにもいない。

船員室から運転室、ボイラー室、コンテナルームをはじめとして隅々までくまなく捜索したものの架那ちゃんは見当たらなかった。

「いた?」

「いえ、いないです」

船底も捜索してきた三和さんも成果はなかったみたいだ。

「もしかしてこっちの船じゃなかったのかな」

「二つに一つを外してしまったのでしょうか」

思案する私たちの思考を吹き飛ばすかのように、トゥルルルンと三和さんの電話の着信音が軽快に鳴り響いた。

「汀からです」

三和さんは急いで電話にでた。

「はい。いえ、いませんでした。え!?

 わかりました。詩歌さんに伝えます。また後でかけます」

三和さんは驚愕の表情をたたえながら、私を見つめた。

「詩歌さん。もう一つの中国側に向かっていた船の反応がロストしました」

え!?

逃げられたってこと?

「おそらくこの船はダミーで向こうが本物だったようです。ですので、戻ってもう片方に向かうと言うことが叶わなくなってしまいました」

「くそっ!」

なんで。

どうしてこう言う大事なときに私は上手くいかないんだ。

最悪だ。

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