5月1日Ⅵ(17)

「おひたしでも作っておきましょうか?」

少し手持ちぶたさに感じたのか、愛奈さんがそう言ってくる。

「まあ、よろしいんですの?」

「ええ。では作っておきますね」

おっと。

つられてついお上品な口調になってしまった。

そんなことを言っている間にも、愛奈さんはテキパキと次々お浸し作りの工程を終わらせている。

はや。

もうお湯沸かしてる。

「愛奈さんきっと良妻になるよ。うん。間違いない

 って思った?」

「ふぇ!?もう詩歌やめてよ!」

また後ろから心を読んだように詩歌が呟いてくる。

「ふふ。詩歌さんは本当に架那さんのことお詳しいですね。

 まるで姉妹みたい」

愛奈さんはどこか嬉しそうににっこり笑っている。

「なら私は妹だね。架那姉ちゃん」

詩歌も楽しそうに無邪気に笑う。

そんな笑い方がどこか妹のようで、どこか府に落ちた。

「妹なら静かに待ってて」

「はーい」

私の指示通り詩歌は今度こそちゃんと席に座った。


「三和さんはお母さん感あるよね」

席に着いた詩歌が言う。

「お母さんか・・・」

「そうですか!でしたら、二人ともお母さんに甘えてくださっていいんです

 よ?」

そうにこやかに笑う愛奈さんの姿は、どこか板についていて。

私は記憶の隅っこにある母の姿を愛奈さんに無意識に重ねていた。


母がいて妹がいて私がいて。

そんなありもしない我が家のことを少し考えていた自分がいた。

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