4月30日Ⅵ(27)


「詩歌もう良いよ!」

詩歌が汀さんに一撃加えようと右手を振りかぶった瞬間、私は詩歌に向かって声の限り叫んだ。

これが恐らく一番有効で安全な手段だと思ったから。

ガランと音を立てて、詩歌の手から離れた警棒は地面を転がる。

「架那ちゃん・・・?」

驚きを隠せない表情で詩歌は私の名前を呼ぶ。

私は詩歌のもとへ走っていき詩歌を勢いよく抱きしめた。

「ごめん、私のせいで。ほんとごめん」

途端、涙が出てきた。

その流れ出した涙を隠すように、詩歌の胸に顔を埋めた。

詩歌もそれに釣られたのか、二人でわんわん泣いた。


「で、どういうことか説明してほしいな。架那ちゃん」

二人して泣き止んだ後、詩歌が私の方を向いて怒ったような顔でそう言う。

「このお人形さんみたいな人とはどう言う関係?」

「この人は、三和・アウローラ・愛奈さん。

 私の父の死の真相を探るための手伝いをしてくれるらしい。

 少々ガサツな手段で私たちを連れてきたことを許して欲しいとも言われた」

「いや、少々ガサツって…。

 私襲われたんだよ?」

「拉致、誘拐のような手段をとってしまい大変申し訳ありません。

 四咲家が、架那様の誘拐に動いているとの情報を拾ったため、先行しようと

 思ったあまり、手荒な方法になってしまいました。

 それに、無関係な神坂詩歌様も巻き込んでしまったこと、大変申し訳ありませ

 んでした」

三和さんが頭を下げると、汀さんも彼女と共に頭を下げる。

「三和さんは嘘を言っているような感じじゃないんだよね。

 で、私は今後この人と一緒に行動するつもりだけど、詩歌はどうする?

 嫌だったらいいんだよ…」

「大体はわかったんだけど、一ついい?」

詩歌はうつむいた表情で私に尋ねる。

「なに?詩歌」

「ちょっと三和さんと話をする時間を頂戴」

「私はかまいませんよ。では、あちらの小部屋にでも移動して話しましょうか」

二人は、手近な小部屋へと入って行ってしまった。


いやおいおい。

…私を攫ってきたこの人と何を話せと。

気まづ。

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