6月3日[木] 床屋さんループ?

 夕方(と言うか夜)、滑り込みで床屋さんへ。


 親父さんが「あれ、今回はもうらしたですか?」と驚き顔で。こちらが戸惑っていると「二週間くらい前に切りに来らしたですよね?」と。

 二カ月以上来ていないのでそんなはずはなく、それを伝えると「あ、そうですか?」と、今度は困り顔で半笑い。棚から黒いハードカバーのノートを出して(多分、お客さん情報をメモしてるやつ)、「5月16日に来店されてるみたいですけど…」と。


 身に覚えがない。互いに「?」なまま、取りあえず「どうぞ」「どうも」と椅子に腰かける。

 親父さんは、わたしの頭を見て「あっ!確かに…」的な表情。そうなのだ。わたしの髪は、前回から二カ月以上経過してボサボサなのだ(いつもは月一ツキイチペースで行っているが、去年から月二ペースにしていた(コロナで))。散髪した形跡など皆無だった。

 親父さんは、わたしの髪に水をシュッシュやりながら「二週間前に来てたら、こんな伸びてませんもんね…」と、納得してうなずいていた。どっちかというと、無理やり自分を納得させようとしている感じだった。


 その後、お互いに(どことなくモヤモヤしつつ)その話はナシにして散髪。景気の話(やっぱ、お客さん減って大変そうだ)とか、オリンピックどうなるかって話とか、町の夏祭りや夜市(駅前通りを歩行者天国にして屋台が並ぶ)は今年やれるかねって話をしていたが……、話しながら、わたしは妙な違和感というか胸騒ぎみたいなものを感じていた。

 前にも、まったく同じ会話をしたことを薄っすらと思い出したのだ。前回と同じことをなぞっているような、そんな感覚。しかも二カ月前とかじゃなくて割と最近に。しゃべるうちに、霧の奥にあったぼやけていた記憶が、だんだんと鮮明になって来て、それにつれて心の中のぞわぞわも膨れ上がっていく。恐怖と表現してもいい。

 しゃべりながら親父さんの顔色をうかがう。親父さんも、どことなく不安そうにしていた。笑顔が強張っていた。自分もだけど。


「あの。この話ってですよ、前も…」と鏡越しに言うと、親父さんが真顔になった。一瞬のがあって「「…ですよね!」」とお互いに。安心して二人とも笑顔(よくわからない感情)。親父さんが「前回。二週間前ですけど、同じようなこと話した記憶があるんですよ」と。それでわたしも「いや、なんとなく自分も記憶あります」とうなずいた。けれども髪を切った形跡は、やっぱりないのだ。


 結局、よくわからないまま帰宅。帰ってすぐに、ダイアリーを確認。5月16日の予定に散髪はなかった(基本、「予定:散髪」などと書いている)。さかのぼると、前回は3月21日に行っている。

 キツネにつままれたような気分。髪を切った形跡はなかった。だけど、親父さんのノートには来店の履歴があった。別の誰かを間違えてメモした可能性もあるけど…。だけど、しゃべってるうちに、お互いに最近話した記憶もあって。しかも、全く同じ会話を繰り返しているような……。謎。


 日常に起きた「非」日常って感じだ。だけど今日のことを、多分わたしは完全にスルーして明日からも生きる。もしかしたら、誰の身にもこんなちょっと不思議な現象は起こっていて、日々に追われる中で無視しているだけなのかもしれない。そう思う出来事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る