「あっ」ってなる瞬間

「じいちゃん」

 僕は、コタツに入って、寝ころびながらスマホでゲームをしていた。不意に、足の裏に違和感を覚える。

 

「じいちゃん、冷たいって」


 僕がそう言うと、にやついた笑い声が聞こえた。

 じいちゃんが、コタツの中で足の裏を合わせてきたのだ。


「大きくなったなぁ。もう、じいちゃんより大きいんじゃないか?」

「そりゃあ、高校生だからね」


 スマホの画面を見たまま、僕は返した。


 小さなころから、冬になると、じいちゃんは、こうやってコタツの中で足の裏を合わせて来るのだ。親が家の柱に子どもの成長を刻むように、じいちゃんも、孫の僕と足の裏を合わせることで成長を感じていたのかもしれない。


 いつだったか裸足どうしで足の裏を合わせたことがあった。「冷たっ!」って言って僕はすぐに足を引っ込めたんだけど、その時のじいちゃんの足は、とても大きくて分厚かった。


「高校かぁ。そうか。はやいなぁ……。勉強はどうだ?難しいんじゃないか?」

「まぁ、そこそこ?」

「そこそこか。まぁ、何事もそこそこで十分だ」


 そう言うと、おじいちゃんは、どこか嬉しそうな声で笑った。


「ねえ」


 急に呼びかけられて、僕は、ハッと我に返った。

 お母さんが、不思議そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「あんた、誰としゃべってんの?」


 そう訊かれたから、僕は「え?じいちゃんだけど」と返した。


「じいちゃんって……。じいちゃんなら、三年前に死んだでしょうが」

「……あっ!」



 僕はコタツから這い出した。外では、しとしとと雨が降っている。軒から垂れていく雨水が、ピチパチ跳ねてリズミカルな音を奏でている。


 三年前のあの日も、同じような涙雨だった。

 僕も、いつの間にか濡れていた頬をぬぐった。

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