日常に潜む悪意

スーパーゴリラ

第1話 宅配物の悪意

(ピンポーン)


業者:「宅配便でーす!!」

宅配便を届ける業者の声が武田理沙(たけだりさ)の勤務先にひびく。


理沙:「はーい!!!!!」

武田理沙のがむしゃら透き通る様な声が業者と執務室内に突き抜ける。

彼女は25歳の会社員で建築設計の仕事をしている。大学卒業後、東京の設計事務所へ入社し現在で3年目になり非常に多忙な毎日を送っている。

8階建ての建物の2階をオフィスとしており従業員は10名程度だ。しかも、彼女の声は壁を突き破る程に大きい。


ガチャッ。扉を開く音がなる。


業者:「武田理沙さん宛にお荷物が届いてますので、こちらにサインお願いします」

理沙:「え?わたしですか?何も頼んでないし届く予定もないのに何だろう。。。

    発送元は確認できますか?しかも大きい。」


段ボールに梱包されたそれは、横が1m50cm、縦が1m程度で重さは10kg程度だ。


業者:「申し訳ございません。匿名配送となっておりまして住所をお伝えすることができません。」

理沙:「そうですか!わかりました!それじゃサインしますね!」

業者:「ありがとうございます!それでは失礼します!」


ガチャッ。ドンッ。業者が扉を開き扉が閉まる音が鳴る。


武田:(なんだろう・・・。斉藤さん宛ての書類を私に間違えて送っちゃたのかな。中身を見て斉藤さんだった

    ら会社に復帰したら渡そう。それにしても重いよーーー!!!!!)


斉藤とは斉藤富雄(さいとうとみお)という人物で、武田の直属の上司に当たる人物だ。年齢は51歳、様々な工事の設計を経験しており、非常に厳しいが理沙が将来はこの人のような設計士になりたいと憧れる程だ。

普段は2人で仕事をしているが、1ヵ月前から体調を崩し会社にきていない。


ドンッ。


理沙は段ボールを設計図やペンで散らかっている自身の机に置いた。


理沙:(最近、忙しくて机の上がぐちゃぐちゃだ。。。荷物を確認したら1回整理しよう。。。)

理沙はカッターを取り出し、段ボールの貼られているガムテープに切り込みを入れ、段ボールを開けた。


理沙:「何これ・・・」

理沙は、想像とは全く違う荷物に思わず言葉が出た。


段ボールの中には、

撮られた記憶のない明らかに隠し撮りをされた理沙の勤務中の写真やプライベートの写真が山盛りになるほど数百枚と入っており、土に汚れた薄汚れたペンと、なぜかコンクリートが入っていた。


理沙:「やだ!!!気持ち悪い!!なにこれ!!」

巧 :「どうした!?」

理沙の悲鳴とも言える叫び声に、同じ会社に勤務する吉田巧(よしだたくみ)が、血相を変えて走ってくる。


理沙:「さっき私宛に宅配便が届いて中をみたらこんな物が入っていたんです。。。」

巧 :「なんだよこれ・・・」


宅配物を見た巧もその壮絶さに言葉を失っているように理沙には映った。


巧 :「ストー・・・カーってやつ?」

理沙:「やめてよ!!気持ち悪い!!」


理沙は恐怖を覚え、今にも泣きだしたいのを我慢していた。


巧 :「これは?」

巧は恐る恐る汚れたペンを段ボールから取り出し、理沙に見せた。

理沙:「嘘でしょ・・・」


理沙はそのペンに見覚えがあった。

大学生1年生から付き合っていた彼氏がいたが、24歳の年に別れた。原因は理沙の仕事が多忙すぎたことが

原因だった。

当時の彼氏天然っ気が入った、人当たりが良くて、そばにいると心が洗われるような人だった。

社会人になってからは同棲を開始し、将来はこの人と結婚したいと考えていた程だった。


彼は教育学部の出身で将来は先生になりたい!といつも意気込んで勉強を頑張っていた。

彼が頑張っている姿を見るのも理沙は好きだった。


お互いの夢が叶い、理沙は建築設計の道へ、彼氏は中学教師の道へ進みはじめ順風満帆かに思えた。


だが理想と現実の違いに2人の関係に亀裂が入っていった。


理沙は入社した直後から、斉藤の下につき仕事をしていたが、斉藤から振られる仕事が多く、

平日は深夜0時を過ぎた後の帰宅が普通になっていった。休日出勤なんて普通で、休める日の方が少ないほどだった。だが、自身の好きな仕事であるため頑張れた。


対照的に彼はというと、自身のやりたかった職業ではあるが、自身が抱いていた理想と現実のギャップが非常に大きく精神を大きく消耗していた。反抗期真っ盛りな生徒の問題行動、叱っても治らない生徒の行動、保護者の異常なクレームなどがあり、18時頃には家に帰るが疲弊しきっていた。


理沙が帰ると彼は就寝しており、会話をする日が少なくなっていった。


そしてある日、2人の間に決定的な亀裂が生じる事件が発生する。

それは、久しぶりに2人の休日が被った朝8時頃で、じめじめとした梅雨の時期だった。


彼氏:「おはよう。早いね。」

ぼさぼさ頭のスウェットで彼氏が理沙に話かけた。

理沙:「おはよう。そうなの。仕事が残ってて今日中におわらせなくちゃ。」


理沙は机と回転する椅子に座り彼氏に背を向け図面を書いていた。こっちもほぼ同じ格好だ。

・・・・・彼氏はその言葉を聞いて、何かと見比べるように10秒ほどじっと理沙を見ていた。


理沙:「どうしたの?」

彼氏:「いや、最近仕事ばっかりだからたまには2人で出かけてもいいなって思ってさ。」

理沙:「無理だよー!!仕事をやらないといけないんだもん!!

    いいなぁ教師は、休日はしっかり休めて出かける暇もあるんだからさ!

    私も教師になればよかったなあ!」

と言葉じりに椅子を回転させ彼氏の方を理沙は向いた。


すると、彼の瞳孔が大きく開き殺意にも似た感情が溢れだしていることに理沙は気づいた。

その言葉聞いた彼氏は、しっかりと爪をきった指で、頭、顔、体の全身をむさぼるように掻き始めた。

その掻いた後は、真っ赤な飛行機雲のように皮膚に出現する。


彼氏:「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

理沙:「ごめん!冗談のつもりで言ったの!本気で言ったんじゃないよ‼」


理沙は焦り彼氏をなだめに入る。


彼氏:「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

痙攣のように震えた体を保ったまま彼氏は理沙に言い放った。


彼氏:「教師になりたい!?ふざけんな!!俺がどんな思いで仕事をしてると思ってんだよ!

    大体、仕事があるからってうけど、最後に2人で出かけたのはいつだよ!

    理沙が前に言ってた厳しい上司のせいでこんなにも苦労してるんだったら、

    俺が殺してやるよ!こんなペンプレゼントするんじゃなかったよ!!!」

と理沙が持っていたペンを奪い取り、窓から放り投げた。


今まで見たことがない剣幕で、怒る彼を見て、理沙はとんでもないことをしてしまったと、

気付く。頭を駆け巡る考えに途端に涙が溢れた。


理沙:「ごめんね。。。私も気付かなかったの。翔がこんなに大変な状況だったってこと・・・」

理沙の目から溢れる涙を見て、翔の怒りの炎が鎮火されていった。


翔 :「こっちもごめん」

我に返った翔もとっさに謝る。


理沙:「今度からはしっかり翔との時間もとれるように仕事を調整するから。」


                ・・・・後日・・・・


斎藤:「何だかお前最近、仕事が雑になっていないか?」

理沙:「そうですか?ちょっと彼氏と色々ありまして・・・」

斎藤:「仕事に私情を挟むな!!ばかばかしい!!仕事に影響をもたらす様なやつとは

    別れてしまえ!!ほら!!次の仕事だ!!!今日中に終わらせるように。」

理沙は、その仕事を振られた途端胃が痛くなるのを感じた。今日は翔と2人でご飯を食べにいく約束をしているのだ。

理沙は彼との約束と仕事をどちらを優先するかで葛藤していた。


気付くと、理沙は彼にラインをしていた。

(本当にごめん。急な仕事が入ってご飯いけなくなった。本当にごめん・・・)


翔からラインは帰ってこなかった。

その日の仕事を急いで終わらせ、家に帰った。


バタン!!!!

と扉を開けてみるとそこに翔の姿はなくラインも既読のまま返ってくることはなかった。

それ以降も返ってくることはなかった。




             ・・・・・それから年月が過ぎ・・・・・


理沙:「嘘でしょ」

巧 :「見覚えあるの?」

理沙:「前、付き合っていた彼氏と喧嘩したときに捨てられたの。なんで・・・誰が・・・」

理沙は思考がぐちゃぐちゃになり、言葉がでなくなった。


巧 :「元カレが嫌がらせに送ってきたとか!!?元カレがストーカーになってるとか!!?」

理沙:「やめてよ・・・」

心無い言葉を浴びせられた理沙は途端に元気がなくなった。

巧 :「ごめんごめん!そういうつもりじゃなかったんだよ!なんかあったら何でも言って!!」


吉田巧は、理沙と同期入社で同い年の唯一の同期だ。どちらも仕事が忙しいというのもあり、

残業する時間帯も一緒、帰る時間帯も入社してからほぼ一緒だった。

そのため、何か相談をするという時も理沙としてはかなり頼れる存在ではあった。


理沙:「わかった。相談するね。」

巧 :「それにしてもこのコンクリートは一体何だろう。」

理沙:「わからない。気味が悪い。業者に頼んで回収してもらね。」

巧 :「そうだな。わかった!」


理沙はその日、業者にコンクリートの回収をお願いしたところ、

次の日に回収にくるとのことだった。


理沙:「今日は早めに帰ろうかな。」

巧 :「送って行こうか?」

理沙:「いや大丈夫!一人で帰れるよ!」


仕事が終わり帰宅途中ずっと理沙は考えていた。

理沙:(だれがこんなことをしたんだろう。翔なわけないよね・・・)

理沙は自分の元カレがこんな非行に走るわけがないと思っていたし、そう思いたかった。

あれ以来ずっと会っていないがずっと気にはなっていた。


19時頃に家に着きシャワーを浴びてごはんを食べ、ソファーの上に座る。

去年くらいから家につくとすぐ眠くなってしまい、朝まで目を覚まさないこともしばしばだ。


理沙:(今日は眠ろう)

21時頃、理沙は眠りについた。



               ・・・・・・次の日・・・・・

理沙:「おはようございまーす!」

理沙の元気な声がオフィスに響き渡る。


理沙:「ん?」

10人程いるオフィスはざわついており、鼻に粘着するようなひどい腐敗した臭いに覆われていた。

皆の視線の先には、理沙に送られたコンクリートがあった。


理沙:「何この臭い・・・」

巧 :「このコンクリートきっと中にやばい系の物が入ってるぞ。一回壊してみようか。」

理沙:「そうだね・・・お願い。」


巧はハンマーを使用し、コンクリートを思い切りたたき破壊した。

中から出てきた物を見て、オフィス全員が凍り付いた。


理沙:「うそ・・・」

巧 :「なんだよこれ。」


コンクリートの中に入っていたのは、斉藤の首から上の頭部が入っていた。


理沙:「きゃーーーーーー!!!!!!!!!」

理沙の悲鳴が建物の外まで響く。オフィスの中も嗚咽や悲鳴で混乱していた。

巧 :「これはだめだ。警察に電話しよう。」


巧は警察に電話をした。


理沙:「もういや・・・耐えられない・・・」

巧 :「誰がこんなこと・・・心当たりはないのか」

理沙:「・・・ない」


理沙は一瞬、翔のことが浮かんだがそれを振りほどいて答えた。



その日、オフィスの中では

「ずっと体調不良かと思っていたけど、殺されていたなんて・・・」

「人から恨まれているからしょうがない・・・」

「理沙が殺したんじゃ・・・」


など、様々な憶測が飛び交っていた。


警察が到着し、理沙は隅々まで事情徴収を受けた。


巧 :「大丈夫か?」

理沙:「ううん。大丈夫じゃない。」

巧 :「今日は送って行くよ」

理沙:「いや・・・大丈夫」

巧 :「いいって!きにすんなって!」

理沙:「お願い・・・」


その日の仕事が終わり、巧と共に家に帰った理沙は、

悲しみと恐怖の感情に支配されていた。


理沙:「今日・・・泊まっていかない?」

理沙には変な意味はなく藁にもすがる思いだったが、巧は心臓がドクンという音が聞こえた。

巧 :「い、いいけど。」

理沙:「お願い。」


近くのコンビニで互いに弁当を購入し、家につくと2人で食べた。

今回の事件の話や、仕事の愚痴を語り合い、巧は理沙に元気少しでも

戻ってきていると感じていた。


理沙:「それじゃ、先にお風呂入るね。次はいってちょうだい!」

巧 :「おっけー」

巧はシャワーを浴びた後の展開に少し期待しつつもそれを悟られないよう、返事をした。


理沙は湯船につかりながら、一体誰がこんなことをしたんだろうと考えていた。


頭が混乱していたが、眠気には勝てなかった。

お風呂から上がり、巧に声をかけた。

巧 :「それじゃ。入るわ」

理沙のパジャマ姿にドキッとしたが、それを感情にださないよう、普段通りの返事をした。


巧はシャワーを浴びながら、この後の展開にすこし胸を膨らませ期待していた。

巧:(これって脈ありなんじゃね。だめだだめだ。あいつは疲れてるんだ。)


巧も風呂から上がり。

巧 :「ふー。いい湯だった!ドライヤ借りて・・・」

巧が見たのは、すでにソファーの上で寝ている理沙だった。


巧はふっ。と笑い近くにった布団を理沙にかけ、ドライヤーをいした。


巧 :「よし。俺も寝るか。」

すこし変な期待をした自分に鞭を打つように巧も睡眠に入った。



               ・・・・・次の日・・・・・

外は天気が良く、すずめのさえずりが聞こえている。

理沙は気持ちよく目を覚ました。


理沙:「あれ!いつの間にねちゃったんだろう。。。あ!!巧!ごめん!

    昨日先にねちゃった!!!あれ・・・」


巧の姿はなかった。


理沙:「昨日帰っちゃったのかな。悪いことしたなー・・・会社言ったら謝らなきゃ!」


理沙は出社の準備を始め会社い向かった。


理沙:「おはようございます・・・」

いつもの元気な理沙の声ではないが、かろうじて声を振り絞り挨拶をすることができた。


理沙:「あれ?まだ巧来てないんだ。」


いつもは理沙より断然早い巧だが今日はいない。


その日巧は仕事に来なかった。


理沙:(どうしたんだろう巧。ちゃっと電話してみようかな。)

プルルルルルルル、プルルルルルルル、プルルルルルルル、プルルルルルルル、プルルルルルルル、


巧は出なかった。

理沙の心の中に何とも言えない恐怖が浮かんだが、それを信じたくはなかった。


理沙は精神的な疲れもあり、明日は仕事を休むことにし帰宅した。


家に帰り、シャワーを浴びごはんを食べて寝る準備に入った。

いつものソファーに座り、眠りに入った。




               ・・・・・・次の日・・・・・・

プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル、

外は雨がふっており、どんよりとした空気の中、理沙は目を覚ました。

携帯に目をやると、登録されていない番号からの電話だった。


理沙は出るか出ないか迷ったが、恐る恐る電話に出た。


(もしもし。警察署の者です。事情徴収したいことがありますので、署まで来ていただけますか。)


理沙はきっと斉藤さんの頭を切断した殺人犯を特定し、それを伝えるために呼び出しているんだ。

と思い、

理沙:「はい!すぐ行きます」

と返事をした。


警察署に着き、事情徴収をする部屋に足を運んだ理沙は信じられない言葉を耳にした。


警察:「武田さん。あなた2日前に吉田巧さんと一緒にいたでしょ?」

理沙:「はい。」

理沙はこの質問の意味が理解できないまま、恐怖を感じつつも返事をした。


警察:「吉田さんね・・・」


警察が嫌な間でいいにくいことを伝えようとしているのが理沙にはわかった。


警察:「殺されたんだよ。誰かに。」

理沙は状況が呑み込めないまま、自然に次の問いをしていた。


理沙:「いつですか・・・」

警察:「2日前の深夜0時ころになります。死体は凄惨を極めていてかなりむごい状態でした。」

理沙:「きっと、私の上司を殺した犯人と一緒です!!犯人はまだ見つけられていないんですか!?」

警察:「・・・・・」


警察が口を閉じた後信じられない言葉を発言した。


警察:「我々が容疑をかけている人物は、武田理沙さん貴方です。」

理沙は口の中の水分が一気に乾燥していくのを感じた。


理沙:「どうして・・・」

警察:「貴方の身の回りを調べさせて貰いましたが、貴方と2人きりで行動をしている人物が連続して死んでいる。これは警察としても疑わざるを得ない。聞いたところ、仕事とその上司が原因で当時の彼氏と破局したとか。」

理沙は誰がそんなプライベートなことを話したんだという怒りと、疑いを掛けられた怒りと失望で話す気力が出ないでいた。


警察:「ただ、まだ貴方の自宅を調べていません。あなたの自宅を調べたうえで再度お話しさせて頂きます。」

理沙:「はい・・・」

理沙は家を調べても意味がないと思いつつも、警察の相談に乗った。


取り調べは明日行われることとなり、理沙は仕事を休むことになった。

理沙:(きっと会社の中はこの話で持ち切りだろうな・・・)

理沙は憂鬱な気分だった。


それでも理沙にはどうしても確かめたいことがあった。

それは、翔の仕業ではないかということだった。

疑いたくない。と思っていたが、疑わざるを得ない状況になっていたからだ。


理沙:(とりあえず電話をしてみよう。)

プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル、

出ない。まあここまでは想定通りだ。


理沙:(ラインをしてみよう)

理沙はラインをした。

「久しぶり!!元気にしてる?私はちょっと元気がないの。。。私の周りで人が2人も亡くなってて、今度警察を家に来るんだ。」


聞かなければいけない一番肝心な部分が体が拒否し入力できない。

理沙は勇気を振り絞った。


「翔じゃないよね?」


理沙がおくったメッセージは、勇気を振り絞ったメッセージだった。自信の好きだった人を疑っているのだから。ラインの最後にこう文章を打った。


「もし、翔じゃなかったら助けてほしいの。怖くて怖くて堪らなくて。ごめんね。こういう時ばっかり・・・私は一緒に住んでたアパートにまだ住んでるから。」


ふっ。というため息と一緒に、自分の中にあった淀みもでていった気がした。


その日は既読になることはなかった。


                ・・・・・次の日・・・・・

ピンポーン

理沙の家のインターホンがなった。


警察:「警察です!武田さんの家の中身を調べさせて頂きに参りました!」

理沙:「はい。よろしくお願いします。」


すると警察官が突然こういった。


警察:「なんか。。。男の加齢臭のような臭いがする気がする。一人暮らしですか?」

理沙:「はい。前は彼氏と同棲していたのですが、今は一人です」


理沙の家の隅々まで、指紋取などが完了し警察は帰っていった。


理沙:「ふうううううううううううう。」

大きなため息には、疲れや緊張感が混じっておりそれらを全て吐き出すことができた。


ふと携帯を持ちラインを開いていた。

昨日翔に送ったラインを見ると既読になっていた。


理沙:「うそ!?既読になってる!」

思わず声がでた。だが、返事はない。

それでも理沙は嬉しかった。理沙にとって2人の時間はあの日以来止まっていたからだ。


理沙:「返事くらいしてもいいのに。」

寂しさと嬉しさが交わる中で理沙は夕飯の準備をするために買物にでかけた。


買物から帰ってきて、まずは先にシャワーを浴びてお風呂に入った。

最近は、悲しい出来事や恐怖を覚える出来事が頻発しかなり疲弊していた。


風呂から上がり、夕飯を作りおわりご飯を食べていたとき、理沙の携帯が鳴った。

プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル、

警察からだった。


理沙はこんな早くに連絡がくるなんてと不思議に思いながら、

恐る恐る電話にでた。


理沙:「もしもし」

警察:「武田理沙さんですか?」

理沙:「はい。そうです。」

警察:「落ち着いて聞いてください。」

理沙:「はい。」

警察:「本日調べさせて頂いた内容と理沙さんの証言を照らし合わせた結果、大変重要なことが発覚しました。

    これは至急の頼みです。まずは家の鍵を全て閉めてください!!いますぐです!!」

理沙:「は、はい!」

理沙は、警察官の勢いに圧倒されながら警察官の言う通り家の鍵をドアから窓から全て閉めた。

理沙:「はあ、はあ、全部閉めました!」

警察:「わかりました。いいですか。落ち着いて聞いて下さい。武田さんの家の中には武田さんともう一人、

    居住者が居ます。」

理沙はぞっとし、背筋が凍り言葉がでなくなった。

警察:「家の中の指紋を調べた結果、武田さんの指紋、吉田さんの指紋、当時の彼氏さんの指紋、それともう一つ誰かわからない指紋が発見されました。」

理沙は、男性で家に入れたことがあるのは、翔と吉田巧の2人だけだった。意味がわからず、異常な恐怖を感じた理沙は口の中が乾いていくのを感じた。


理沙:「どこにその指紋があったんですか?」

警察:「至るところにその指紋が発見されています。そして一番その指紋が濃かった部分がソファーの引き出し

の中でした。」

理沙は、あまりの恐怖に吐き気をもよおしながら、自身のソファーを視認した。

理沙のソファーは量販店等でよく見る大きいソファーで翔と家具を探しに行ったときに、

下に引き出しがあったほうが収納も困らないから。という理由で選んだソファーだった。

そこには確かに人が入れるスペースがあるソファーだった。


警察:「武田さん。私たちが武田さんの家を出てからどこかに外出はしましたか!?」

理沙:「はい。夕飯を買いに一度だけ。」

警察:「いけない!!今から私たちもそちらに向かいます!鍵をかけたまま待っていてください!もし、部屋の中にその男がいたらすぐに逃げてください!」

理沙:「わかりました。」

それを最後に警察との電話が切れた。


理沙は、ソファーを視認した位置から動けないでいた。

余りにも衝撃的な内容で完全に恐怖に支配されていたのだ。

今すぐにでも外に逃げ出したい気持ちを抑え考えた。


理沙:(外にいったら逆に危険な気がする。私が夕飯を買いに行って帰ってくるまでの間は30分。その間にこの家に入ってきてなかったら、いいのよね。)


理沙は、焼き切れるような恐怖と全身に冷や汗をかきながらゆっくりとソファーに向かっていった。


手元が震え、心臓はドンッドンッドンッドンッドンッと、太鼓のようにけたたましくなっている。


ソファーの引き出しに手を伸ばし、意を決して引っ張ってみた。


だが、ソファーの引き出しは空かなかった。


理沙:(ん?あかない?)


その途端理沙は瞬時に理解した、


ここに人がいる!!!!!!!!

人の重みで引き出しが開かないんだと。


理沙は刹那に叫び声を発した。


理沙:「きゃーーーーーーーーー!!!!!」


すると勢いよく引き出しの中からみたことのない、

男がでてきた。


その男は、みるからに悪意にみちており、刃物をもっていた。

長くぼさぼさな髪、伸びきった髭、鋭い眼、小太りで180cm程度の大男だった。


理沙はにげようとし、玄関に走り出したがすぐに男に捕まった。


理沙:「誰か助けて―!!!!!!!!!!!!」

理沙が大きい声を出すと、その男は理沙の太ももに刃物を突き刺した。


理沙:「いやーーーーー!!!!」

男 :「騒いだら殺す。」


大地が震えるような低い声で男理沙に言い放った。

理沙は涙を流しながら頷いた。


男 :「僕はずっと見ていたんだ君を、君が彼氏と住んでいるときからずっと。あのくそ上司のせいで苦労しただろ。だから俺が殺してあげた。この前、巧君?友達が来た時も君と一緒にいるのは相応しくないと思って殺してあげたんだよ!その時もソファーの下にいたんだけど、君が寝ていた時のあの子のため息は傑作だったなー!

もちろん写真を撮ったのも僕だし、ペンを拾ってあげたのも僕なんだよ。優しいだろ?なあ。僕と一緒にいようよー!」


理沙は激しい怒りに体の底から炎湧き出すような感情になった。それでも男の力に勝つことはできない。


理沙:「やめて!!!!!!!」

理沙は必死に抵抗する。

男 :「暴れる子にはお仕置きだ!!!!」

男は理沙の顔を張り手で思いっきり殴った。

理沙の頬が真っ赤に腫れる。

理沙は理解した。そもそも人を殺すような人間だから人を殴ったりストーカーをすることに何の罪悪感も感じないんだ。

すると、体の力が抜けここで死んでいいと考えるようになった。

思えば、仕事ばっかりで大好きだった彼氏と別れそれ以来連絡もとっていない。もういいかなと思っていた。


男 :「さっき警察と電話してたでしょ?ここにいたら、ばれちゃうからここから逃げようね!さ、早く立って!」

理沙はぐったりしている。

ぐったりしている理沙を見て、男はまた暴力を振るう。

男 :「いいかい。君は僕の物なんだ。黙って言うことを聞け!!」

そういって理沙を引きずりながら玄関に向かっていった。


理沙が絶望に襲われぽけーっとしていると、鍵を閉めたはずのドアがガチャっと開いた。


そこには、1年前と変わらない天然気質の翔が理沙が好きなプリンを持ってニコニコしながら入ってきたのだ。

翔は合鍵をもっていた。同棲を始めたころに2人で作ったのだ。


翔を見た瞬間、理沙は安堵と嬉しさで涙が溢れ出た。


間髪いれずに男が翔に刃物を振りかざす。

理沙:「翔!!!」


翔はその刃物をよけ、刃物を奪い取り理沙に対してこう言った。

翔 :「理沙!逃げて!!警察を呼んで!!早く!!!」

理沙:「わかった!!」


理沙はとっさに男から逃げ、震える手と震えた声で警察に電話した。


理沙:「もしもし。警察ですか!家の中に男がいて今彼氏が助けに来て・・・」

理沙の説明は混乱の中で意味不明だった。

警察:「大丈夫ですよ。今向かってます。あと5分で着きます。どうにか耐えてください。」


理沙は翔に加勢しなければと思い家に戻った。


家に戻ったが、翔は男に抑え込まれ、明らかに劣勢であった。

それもそのはず、体格が全く違うのだ。翔は細身、相手は太いそれは明らかだった。


翔の加勢に理沙が加わり、男を抑え込んだ。

2人の力を合わせれば何とか抑え込むことができた。



ピーポーピーポーピーポー

パトカーの音が2人に勝利を確信させた。


男も最後の抵抗をするが、もはや余力は残っていなかった。


警察:「武田さん大丈夫ですか!!お前か!!!この事件の犯人は!!午後21時19分逮捕する!!」

男以上にがっちりとした警官2名に男は取り押さえられた。


警察:「遅くなってしまい、申し訳ございません。2人とも無事でよかったです。私共はこれからこの男に事情徴収を行いますので、別便で署までお越しください。」



理沙と翔は警察の赤い傾向ランプが回転する中、

顔を見合わせ、大好きだった人とタイムスリップで再開したような笑顔を2人で見せ合い手をつないだ。




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